乳腺外科

乳ガンの種類

5㎜しかないガンでも再発して亡くなってしまう方がおられます。4㎝を超えて見つかっても、治癒して生存されている方がおられます。これは決してその方が生活態度を改めたかどうか、特殊なサプリメントを飲んだかどうかではありません。実はそうした振る舞いをするがんの種類だったら、と考えるほうが正しいことがわかっています。

一言に乳ガンといっても様々な種類があるのです。これは先の進行度とは別です。見かけが違えば、それに伴い性質も異なります。「5㎜しかないガンであっても再発して亡くなってしまう」ガンが進行して見つかればより危険な状況ですし、「4㎝を超えて見つかっても、治癒して生存される」ガンが早期に見つかればより簡単な治療で安全に治癒できます。

病理型

  • DCISと呼ばれる乳ガンがあります。この乳ガンはStage(ステージ)0です。ほぼ100%治るため、超早期乳ガンと呼ばれます。しかし細い糸のように乳腺の中で広がる傾向があるため、乳房の温存が難しいという特徴があります。
  • Invasive micropapillary carcinoma(浸潤性微小乳頭ガン)とよばれる病理型の乳ガンでは、非常に早期から転移を起こしやすいという性質があります。したがって多く抗がん剤の適応となります。
  • Invasive lobular carcinoma(浸潤性小葉ガン)と呼ばれる種類のガンは、乳腺の中で非連続性に多発する傾向があります。マンモグラフィーでも大きくならないとうつりにくく、発見が遅れがちです。一見温存できそうな状況で見つかっても、実は反対側の乳腺もがんで侵されていた、ということがあり得るのもこのガンです。
  • mucinous Carcinoma(粘液ガン)という種類のガンは抗がん剤が効きにくいという特徴があります。したがってこのガンの際は進行して見つかっても、化学治療から治療を開始することはせず、まず切除になります。

ここに述べた以外にも治療に影響を与える病理型の種類があります。主治医が説明しますので、よく聞いておきましょう。そして他人のガンと自分のガンは違うという原則を理解してください。

Intirinsic subtype(ガン固有のタイプ)

ガン細胞がホルモンレセプターという分子を持っているかどうか、HER2遺伝子が作り出すタンパクを持っているかどうかで種類があります。
 ホルモンレセプターとは女性ホルモンを受け取って、細胞分裂を起こさせる信号を細胞に出す受け皿です。通常女性が思春期になり、卵巣が女性ホルモンを活発に作るようになると、乳腺は大きくなり始めます。逆に閉経して女性ホルモンの量が落ちると、乳腺組織は痩せて脂肪に置き換わるようになります。このように乳腺組織は女性ホルモンの影響を強く受けており、このホルモンを受け取って、乳腺細胞を増殖させる信号を出す受け皿がホルモンレセプターです。
 乳ガンの細胞もこのレセプターを持つものは女性ホルモンの影響を受けて増殖します。また逆に女性ホルモンを抑えるとおとなしくなることが知られています。

 HER2レセプターは少し特殊なレセプターです。実はこのレセプターを刺激する物質はまだ見つかっていませんが、このレセプターがさまざまな要因で刺激されると細胞を増殖させる強い信号が伝達されることがわかっています。この分子もガンによって持っているものと、持っていないものがあります。
 ホルモンレセプターを持つ、持たない、そしてHER2レセプターを持つ、持たない、によって簡単にガンは4つに分類されることになります。

※付記ですが、Luminal BにはHER2レセプターは持たないものの、分裂は盛んに行っているものも含まれます。Luminal AとBの分類は厳密には遺伝子の検査が必要になります。

そしてこの分類によって、さらに治療方針が影響を受けます。


 これらからわかるように、たとえばTNM、病理型、ホルモンレセプター、どれがどう影響して治療方針が決定するかはとても複雑です。専門医が存在する理由はここにあります。

 ガン治療においては、TNMがどの段階で見つかったか、ガンはどのタイプか、そしてそれに応じてどんな治療を行ったが、が非常に重要です。そしてこれらの検査結果がそろうためには時間も必要です。


冷静に落ち着いて、必要なデータをしっかりそろえ、専門の知識を用いて治療方針を定め、それがいったん決まれば出来うる最善を尽くす、治療をするということはそういうことだと思います。そしてそのための心構えをもち、いたずらに治療を焦らないことが大切です。

もっと詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

乳ガンの進行度

ガンは、まず腫瘍(T)ができ、リンパ節に転移をし(N)、そして全身に散っていく(M)経過をとることが多いとされます。直接、血流に乗って転移を起こすこともありますが、腫瘍近くのリンパ節に転移があれば、その先の全身に転移がある確率も高まります。
乳ガンに限らず、ほぼ全てのガンが、このT N Mによって、病期が決まります。  
一般の方は、病期を早期、末期と分けますが、我々は (0) I II III IVと分けます。  
一般に言われる分類だと、Iが早期、IVが末期、II、IIIが進行ガンとなります。

T N Mについて

Tは主に腫瘍の大きさです。乳ガンの大きさは触診、マンモグラフィ、超音波検査、MRI検査などで調べます。

乳ガンでは、1cm、2cm、3cm、5cmが重要な分岐点です。
1cm以下で見つかると、抗ガン剤で治療される可能性はほとんどありません。2cm以下だと、一応、早期ガンとして扱われますが、1cmを超えると化学治療を行う場合があります。2cmを超えると早期ガンではありません。したがって抗ガン剤を使われる可能性はさらに高まります。3~4cmは温存切除で対応できるかどうかの基準になります。3~4cm以下が温存切除の適応になります。乳腺の大きい人ほど腫瘍が大きくても残せる可能性があります。5cmを超える、皮膚に浸潤する、胸の筋肉に浸潤するとさらに進んだ進行ガンとなります。まず抗ガン剤が必要となると思って間違いありません。ガンの大きさは自分で触ってもある程度分かります。少し大きめに感じることが多いので、参考にはなりますが、正確な数字は主治医に聞きましょう。

ここで0cm、いわゆるしこりを触らない、浸潤ガンの部分がない、特殊な早期乳ガンとして、非浸潤性乳管ガン(DCIS)と呼ばれる乳ガンに触れます。このガンは完全に切除されれば、転移や再発することはなく、99%以上治癒することが知られており、その意味からは超早期ガンです。触ることはできないので、主に検診で発見されます。しかし逆にそのガンの進展範囲の確認が難しく、進展範囲が広くなることが多いため、たとえ早期であっても逆に温存切除が難しい場合があります。繰り返しになるかもしれませんが、病期とは、そのガンが治るかどうかの基準です。抗がん剤が必要かどうか、温存ができるかどうか、は別の基準です。

Nはリンパ節への転移の有無、程度の判断です。

リンパ節に転移があるかどうかは、厳密には手術をしないと分かりません。
まず超音波やCTで、腋窩、鎖骨の上、頸部などに大きくはれているリンパ節があるかどうか調べます。基準は1cmです。これよりも大きなリンパ節が見つかると、針でこれをついて細胞を採取しますこの中にガン細胞が認められれば、転移ありです。しかしガン細胞が見つからないからといって、転移がないことにはなりません。手術前に転移が“ある”ことが証明されることはあるが、転移が“ない”という証明は手術をしないとできない、ということです。

リンパ節転移の有無は、抗ガン剤が必要かどうか、そして場合によっては放射線治療を行うかどうかに関与します。

センチネルリンパ節(見張りリンパ節)という考え方

現在の手術ではわきの下のリンパ節郭清(しっかりと切除すること)を加えることが標準となっています。しかし「リンパ節郭清を行ったものの、術後に調べてみたらリンパ節には転移していなかった」という場合、患者さんは結果的に不必要な手術を受けたことになります。
このような問題を解消し、さらにはリンパ節郭清によって起こりうる後遺症をできるだけ少なくするために始まったのが、「センチネル(=見張り)リンパ節生検」という検査です。
わきの下のリンパ節のうち、最初にがん細胞がたどり着くリンパ節を、理論上「センチネルリンパ節」といいます。このセンチネルリンパ節にがん細胞がなければ、その先のリンパ節にも転移はないと判断し、わきの下のリンパ節郭清を省略することができます。
センチネルリンパ節がどのリンパ節で、どこに存在しているのかを調べるためには、手術開始とともに青色の色素を乳房に注射します。それらはリンパ管を流れてセンチネルリンパ節に集まるので、色素を認識する特殊なカメラをつかってこれを追跡し、センチネルリンパ節を探し当て切除します。
切除したセンチネルリンパ節は、手術中に病理医が顕微鏡で詳しく調べます。 その結果、がん細胞が見つからなければ、わきのリンパ節はそのまま残します。がん細胞が見つかった場合は、通常のリンパ節郭清が行われます。術前の画像検査でリンパ節転移の可能性が低いと考えられる場合、乳房の切除の方法にかかわらず、センチネルリンパ節生検を行なって、わきの下のリンパ節郭清を省略し、後遺症の危険性を減らすことができます。

リンパ節転移では、これに加えて、リンパ節を包んでいる膜を破って、ガンがリンパ節の外に出ていたかどうかも関与します。しかしこれはなおのこと手術をしてからでなければ分かりません。

Mは乳腺やリンパ節を局所と呼ぶのに対し、肺や肝臓、骨、脳など、遠隔転移の判断です。
M1以上が、皆さんの言われるいわゆる“末期“ガンになります。
けれども現在は末期ガン=死ではありません。通常乳ガンは遠隔転移が見つかっても、治療を続けながらではありますが、3年以内になくなってしまうことは稀です。この段階で見つかってしまうと治癒することは難しくなりますが、仕事を続けたり、趣味を続けたりしながら、治療を継続して長期間にわたり今迄通りの生活を続けていくことができます。

期待される予後

下の表は厚生労働省が発表したガンの治療成績です。
ガンの診断がなされてから5年間生存できる確率で示されています。
「限局」とされているものはT1~3N0 M0と考えてください。
「領域」とされているものはTすべてN1-2 M0と考えてください。
「遠隔」とされているものはTすべてNすべて M1と考えてください。

5年相対生存率 (%)
部位 診断年 限局 領域 遠隔
全部位 1993-1996 84.6 43.2 10.3
1997-1999 85.2 43.7 10.1
2000-2002 86.4 46.4 10.7
2003-2005 88.9 49.4 11.8
乳房 1993-1996 96.6 78.3 25.3
1997-1999 97.7 78.4 27.6
2000-2002 97.4 82.3 29.3
2003-2005 98.2 84.5 28.2

乳ガンではすべてのガンの中では比較的予後が良好で、しかも年々これが改善しています。またリンパ節転移があっても予後がほかのガンほど低下しない特徴があります。またたとえ遠隔転移を伴って発見されてもほかのガンと比較して予後が良好であることもわかります。