婦人科対象疾患


子宮頸癌
子宮頸癌は子宮の出口の所に発生する癌で、比較的若年の女性に多くみられる悪性腫瘍です。原因として、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスの感染が挙げられており、ワクチン接種や定期的な検診が推奨されています。
初期には症状はあまりありませんが、進行すると性器出血や帯下異常などを起こします。拡大鏡(コルポスコピー)、組織生検で診断します。
前癌病変(子宮頚部異形成:CIN)には1(軽度異形成)から3(高度異形成・上皮内癌)の程度があり、CIN3の状態から手術適応となります。子宮頚部を円錐形に切除する子宮頚部円錐切除術や、挙児希望の無い場合は子宮全摘術(腹腔鏡・ロボット手術)を行うこともあります。
子宮頸癌(浸潤癌)は、その浸潤の程度によって進行期がⅠ期からⅣ期に分けられます。婦人科診察や拡大鏡検査、MRI検査、PET-CT検査を施行して進行期を判断します。Ⅰ期や、Ⅱ期の一部は手術適応となります。場合によっては先に円錐切除術を行って、どのくらい広い範囲で切除をするか、子宮摘出の方法(単純子宮全摘、準広汎子宮全摘、広汎子宮全摘)を判断します。低侵襲手術(腹腔鏡、ロボット手術)を行う場合もあります。
ⅡB期以上の症例については、放射線と化学療法を組み合わせた治療になります。放射線は外照射(体の外から当てる方法)と、腔内照射(子宮内に器具を挿入して当てる方法)があります。腔内照射が必要な患者さんは専門施設へ紹介しています。
子宮体癌
子宮体癌は、子宮の内側の部分(子宮内膜)から発生している悪性腫瘍で、子宮内膜癌とも呼ばれています。婦人科の悪性腫瘍の中で一番多く、50-60歳代が好発年齢とされています。多くの場合は、女性ホルモン(エストロゲン)との関連で発生するとされ、妊娠経験の無い人、肥満の人、糖尿病・高血圧の人、月経不順の人、乳癌でタモキシフェンを使用している人、ホルモン療法をしている人などがなりやすいと言われています。エストロゲンと関連しない種類の子宮体癌もあります。子宮内膜組織診や、MRI、PET-CT検査で診断を行います。
早期の子宮体癌(ⅠA期)、癌が子宮体部にとどまり子宮筋層への浸潤が1/2以下であると判断された症例に関しては、低侵襲手術(腹腔鏡、ロボット手術)の適応となります。開腹手術よりも傷も小さく、回復が早く、ロボット手術ではさらに緻密な操作が可能となります。ⅠB期を超えている(筋層への浸潤が1/2を超える)と判断した症例に関しては、開腹手術が勧められます。子宮全摘と両側付属器切除、上腹部までのリンパ節郭清と大網切除を行います。術後の病理検査結果を見て進行期を最終判断し、必要に応じて化学療法(パクリタキセル・カルボプラチン)を行います。
また進行再発子宮体癌に対しては、免疫チェックポイント阻害剤の使用が保険適応となりました。組織検査の免疫染色、MSI(マイクロサテライト不安定性)検査の結果を見て、抗がん剤と組み合わせて治療を行います。
卵巣癌・卵管癌・腹膜癌
卵巣が腫れている「卵巣腫瘍」のうち、悪性のものを卵巣癌と呼びます。組織の種類によってさまざまな癌が存在します。卵管から発生する卵管癌、腹膜から発生する腹膜癌も、卵巣癌と同様の治療となります。
上皮性・胚細胞性・性索間質性など様々な種類がありますが、ほとんどが上皮性の腫瘍です。また悪性度が比較的低い、境界悪性と呼ばれるものも存在します。
自覚症状は下腹部の腫瘤感などもありますが、症状が出たときには進行していることも多いです。検査としては婦人科診察やMRI、PET-CT検査などを行って、進行期を診断します。組織採取をすることと腹腔内観察をするために腹腔鏡手術(審査腹腔鏡)を行う場合もあります。 手術療法としては、原則として開腹手術となります。子宮全摘と両側付属器(卵巣+卵管)切除、リンパ節郭清、大網切除を行います。必要に応じて腸管合併切除、播種(転移)病巣の切除を行い、病巣を完全に切除します。術後に進行期を最終判断し、必要に応じて化学療法(カルボプラチン、パクリタキセル療法)を行います。最初の診断時に手術での完全切除が難しいと判断された場合には化学療法を先行し、切除可能と判断した時点で腫瘍減量手術を行います。進行卵巣癌に対しては化学療法の終了後に維持療法(PARP阻害剤など)を2-3年間行います。手術検体の癌細胞の状態(相同組み換え修復欠損)をみるHRD検査が保険適応となり、この結果を鑑みて治療方針を決定します。また乳癌の原因遺伝子でもあるBRCA遺伝子との関連も言われており、血液検査も保険で行えるようになっています。遺伝カウンセラーによるカウンセリングも適宜行っています。
子宮筋腫
子宮にできる平滑筋由来の良性腫瘍です。女性の約30%に認められるといわれています。女性ホルモン(エストロゲン)の働きによって大きくなります。子宮の外側にできる漿膜下筋腫、子宮の筋層内にできる筋層内筋腫、子宮の内腔にできる粘膜下筋腫と、場所によって分類されます。過多月経、不正出血、不妊症の原因となります。子宮の筋層および内腔にできる筋腫では、症状がおこりやすいです。
診断は婦人科診察や超音波、MRI検査によって行います。悪性の腫瘍である子宮肉腫との鑑別を要します。
年齢や症状、大きさ、妊娠希望の有無などで治療を決定します。良性の腫瘍でもあり、症状のない場合には経過観察とすることもあります。手術療法としては基本的に腹腔鏡手術で行っています。挙児の予定がある患者さんには子宮筋腫核出術(筋腫だけを取って子宮は残す方法)、挙児の予定がない患者さんには子宮全摘術を行います。子宮内腔に突出した腫瘍の場合は、子宮鏡手術(子宮内にカメラを入れる手術)で筋腫を取る場合もあります。手術までの期間で過多月経や貧血の治療、子宮の収縮を期待してエストロゲンの働きを抑えるホルモン療法(偽閉経療法)を行う場合もあります。閉経が近い患者さんは手術をせずにホルモン療法のみで様子を見る場合もあります。
子宮内膜症・子宮腺筋症
子宮内膜症とは、子宮内膜(月経の時に剥がれてくる組織)に類似した組織が、子宮の内腔以外の場所(骨盤腹膜、卵巣など)に生着して、増殖と炎症を繰り返す病気です。性成熟期女性の約10%に存在すると言われており、月経痛や慢性骨盤痛、性交痛や不妊症の原因となることがあります。卵巣にできた場合には、卵巣に古い血液(チョコレート状)がたまるため、卵巣チョコレート嚢胞と言われます。
子宮腺筋症は子宮内膜に似た組織が子宮筋層にできる病気で、こちらも月経痛や過多月経、不妊症の原因となることがあります。
婦人科内診や超音波、MRIで診断し、年齢や挙児の予定によって治療方法を選択します。
子宮内膜症や子宮腺筋症は通常の月経にさらされることによって病気が進行するため、適切なホルモン療法が必要となります。低用量のエストロゲン・プロゲステロン製剤、黄体ホルモン療法、偽閉経療法などがあります。
妊娠を考えている期間はホルモン療法が使用できないため、その時に大きな卵巣チョコレート嚢胞がある場合などは、腹腔鏡下に嚢胞核出術となる場合があります。手術によっても卵巣機能が下がると報告されており、不妊治療施設とも連携して治療を検討します。
挙児希望のない骨盤痛・過多月経などを有する子宮内膜症・子宮腺筋症は根治手術として腹腔鏡下子宮全摘術+両側付属器切除を行います。
卵巣嚢腫
卵巣にできた腫瘍のうち、良性で内部に液体貯留のあるものを卵巣嚢腫と呼びます。女性の10%は卵巣嚢腫を指摘されると言われています。内部にさらさらした液体がたまったもの(漿液性嚢胞腺腫)、ねばねばした液体がたまるもの(粘液性嚢胞腺腫)、皮脂成分や髪の毛などがあるもの(成熟奇形腫)などがあります。
良性の腫瘍であっても、4-5cmを超えてきたものは卵巣茎捻転や、卵巣嚢腫破裂などの急性腹症の可能性があり、手術の適応となります。
婦人科診察や超音波、MRI検査で診断を行います。最終診断は手術で摘出した標本を病理検査に提出して行いますが、術前の診断で悪性を疑っていない場合は基本的に腹腔鏡下手術を行います。
手術の内容は付属器切除(卵巣・卵管を切除する方法)と、嚢腫核出術(卵巣の正常な部分を残して、嚢腫の部分のみを取る方法)があります。
骨盤臓器脱
骨盤臓器脱とは、子宮が下がってくる状態(子宮下垂、子宮脱)とともに、腟の壁がゆるんで膀胱や直腸が下がってきている状態のことを呼びます。
入浴時にピンポン玉のようなものが触れたり、進行すると排尿障害、排便障害が起こる可能性があります。
保存的な治療としては腟内にリングを入れる方法があります。手術療法としては経腟的に子宮全摘して腟壁を縫い合わせる方法などがあります。腹腔鏡下に子宮と付属器を摘出して、靭帯を縫い合わせる方法もあります(腟壁も縫い合わせます)。
メッシュなど人工物を入れる方法や尿失禁を伴っている場合は当院では行っていないため、専門施設へ紹介します。