内科

臨床診断学の勉強会

医学論文抄読会

当院内科では、医学雑誌New England Journal of Medicineに毎週掲載されるCase Recordsを丁寧に読み込み、論理的な臨床診断の考え方を学んでいます。詳細に検討された医学論文を毎週読むことで、医学的知識が豊富になるだけでなく、一流と言われる医師の臨床論考の過程をたどることは、日常臨床における論理的思考法を身につける上でも非常に役に立ちます。 特に月はじめに掲載されるClinical Problem-Solvingについては、研修医をpresentor役とdiscussor役、各科専門医をファシリテイターにした、問題解決型のカンファレンスの教材に使用しています。 以下に、New England journal of MedicineのClinical Problem-Solvingを使用した、当院の問題解決型カンファレンスの記事を掲載します。参考にしてください。

Led Astray

N Engl J Med 2020; 383: 578-583.

症例

34歳の男性が、1ヶ月前からの2.7kgの体重減少とびまん性腹痛、倦怠感、食欲不振のため、地域病院を受診した。便秘であったが、下痢、メレナ、血便、また発熱や寝汗はなかった。患者はインド出身で、13歳でカナダに移住した。既往歴と旅行歴に特記事項はなかった。体温36.7℃、血圧117/73 mmHg、脈拍99回/分、Sp02 99%、呼吸数16回/分。結膜蒼白で痩せており、頚静脈圧は胸骨角から1 cmであった。心臓、呼吸器、神経学的所見は正常であった。表在リンパ節の腫脹はなく、左下腹部に軽い圧痛があったが、反跳痛、板状硬、腹水、腫瘤、臓器腫大はなく、腸音は正常であった。Hb 7.7 g/dL、Ht 25%、MCV 73 fl、PLT 34.4万/mm3、WBC 11,300/mm3(多核白球90%、好酸球数は正常)、フェリチン 316 ng/mL、鉄184 μg/dL、総鉄結合能290 μg/dL、トランスフェリン飽和度 63%であった。末梢血塗抹では少数の有核赤血球、多染性赤血球、好塩基性斑点、パッペンハイマー小体、涙滴赤血球、小球症を認めた。AST 100 U/L、ALT 162 U/L、γGT 195 U/L、ALP 132 U/L (30-135)、ビリルビンとLDHは正常であった。腎機能検査、電解質、甲状腺刺激ホルモン、血清ビタミンB12、CRP、PT INR、APTTは正常であった。腹部CTでは直腸およびS状結腸、結腸肝彎曲部の襞肥厚が認められたが、終末回腸は正常、リンパ節腫脹は認めなかった。

鉛中毒

鉛中毒は見落とされがちな診断である。腹痛と体重減少といった臨床症状は非特異的だが、小球性貧血の原因が限られることに着目し、診断に至った。この症例では、血清フェリチン値が200 ng/mLを超えており、鉄欠乏症の可能性は低いにもかかわらず、当初は鉄欠乏性貧血と診断されて、内視鏡検査を繰り返された。血中鉛検査は非侵襲的、正確、かつ安価であることを考えると、鉛中毒症状が疑われる患者では速やかに検査を実施すべきである。鉛中毒が確認されたら、発生源を特定して継続的な暴露を防がなければならない。血中鉛濃度が長期的に高いと、心血管疾患、腎機能障害、神経認知障害のリスクが増加する。
鉛は多臓器に影響を及ぼす。臨床症状にはバリエーションがあり、暴露期間によっても変わるが、胃腸の不快感、便秘および精神症状が見られる。身体所見では、歯肉線(青みがかった色素沈着)、高血圧、末梢神経障害があるが、いずれ感度は低い。赤血球の好塩基性斑点は鉛中毒に特徴的であるが、ヒ素中毒、鉄芽球性貧血、骨髄異形成症候群、サラセミアなどでも認められる。


参考文献
  1. Goldman RH, et al. A Diagnosis to Chew On. N Engl J Med 2019; 381:466-473.
  2. Friedman LS, et al. Case records of the Massachusetts General Hospital. Case 12-2014. N Engl J Med 2014;370: 1542-1550.

2020/08/25抄読

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Case 25-2020: A 47-Year-Old Woman with a Lung Mass

N Engl J Med 2020; 383: 665-674

症例

患者は47歳女性。2か月前までは健康であったが、COVID-19パンデミックの初期に、断続的な乾性咳嗽と喘鳴が出現した。最初は発熱、悪寒、息切れはなかったが、2日前に咳が悪化し、息切れを生じたため、かかりつけ医の電話診療を受けた。加湿、フルチカゾン点鼻、フェキソフェナジンが勧められた。ところがその後、歩行時の息切れが悪化したため、救急外来を受診した。
患者は南米の赤道地域出身で、20年前に米国に移住した。既往歴は湿疹、妊娠糖尿病。体温38.0℃、心拍数100回/分、血圧124/64 mmHg、呼吸数18回/分、SpO2 97%、肺音清。白血球4430/μL、リンパ球550/μL、血中電解質、肝・腎機能は正常。鼻咽頭拭い液によるインフルエンザA・Bウイルス、RSウイルスの検査は陰性。胸部X線で右下葉に4cmの円型の腫瘤影を認めた。胸部造影CTでは右下葉に円型の腫瘤状のすりガラス陰影があり、辺縁部は高吸収でreverse halo signを認めた。さらに右中葉と左上葉の末梢域に小さな結節性のすりガラ陰影があり、右肺門リンパ節腫が見られた。

COVID-19肺炎のCT像

COVID-19肺炎のCT所見として多く報告されているのは、肺下葉の末梢側に優位な、両側性のすりガラス陰影であり、時にコンソリデーションを伴い、器質化肺炎の過程を示唆する。すりガラス陰影は多発性、円形のことが多いが、単発性もあり、リバース・ハローサインが認められることがある。
しかしこうしたCT所見はCOVID-19肺炎に特有な像ではなく、他の疾患と区別できない場合もある。そして特にCOVID-19の初期には、CT画像が正常なことがある。クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の事例では、SARS-CoV-2 PCR陽性者のうち、有症状者の21%、無症状者の46%で、胸部CT像は正常であったことが判明している。


参考文献
  1. Bernheim A, et al. Chest CT findings in coronavirus disease-19 (COVID-19): relationship to duration of infection. Radiology 2020; 295: 200463.0.

2020/08/18抄読

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Case 24-2020: A 44-Year-Old Woman with Chest Pain, Dyspnea, and Shock

N Engl J Med 2020; 383: 4753-484

症例

44歳の女性が胸痛と息切れのために入院した。8日前、悪寒、咽頭痛、咳嗽、筋痛が出現した。症状が改善しないので、6日前にかかりつけ医に連絡し(遠隔診療)、咳嗽時の肋骨痛と体温35.3℃を報告した。COVID-19が疑われ、隔離措置が取られ、安静、水分摂取の励行、必要時にアセトアミノフェンと鎮咳剤が勧められた。3日前、下痢と腰痛が出現したが、咳嗽は減った。入院当日、これまでとは違う胸痛が出現した。胸痛は安静時にもあり、呼吸困難を伴ったため、救急隊に連絡した。心拍数116/分、収縮期血圧110 mmHg、呼吸数20/分、酸素飽和度99%であった。患者は救急車で病院救急部に搬送され、到着時に患者は脱力感、ふらつき、発熱、悪寒を訴えた。前胸部に圧迫感のような胸部不快感があり、深呼吸や咳で悪化した。また悪心と数回の非血性の下痢を訴えた。体温は36.4℃、心拍数103/分、血圧79/51 mmHg、呼吸数30/分、酸素飽和度99%、BMI 23.7。顔色は蒼白で、軽い発汗を認めた。会話は可能だがが、倦怠感が強かった。聴診で肺音は清、心音は頻脈でS1・S2は正常、S3・S4は聴取しなかった。

COVID-19と心膜心筋炎

COVID-19に心膜心筋炎による心筋障害の合併を示唆する報告が増えている。心筋細胞にあるACE2受容体がCOVID-19によるリンパ性心筋炎を起こす理論的メカニズムである。この患者では、急性の胸膜性胸痛、心嚢液、ECGにおける軽度ST上昇とQRS低電位、急激なトロポニン上昇が認められ、劇症型心筋心膜炎が示唆された。ウイルスの心筋細胞への感染や炎症細胞の浸潤といった、リンパ性心筋炎の生検による組織学的確定診断は、最近はMRI診断に取って変わられる傾向にある。しかしT2強調像やガドリニウム造影後期相の濃染では、心筋の浮腫と血管内皮細胞障害等の非心筋要因を区別できない。尤も本症例の臨床症状の多くは、単なる心筋の浮腫や血管内皮の透過性亢進でも説明はできる。


参考文献
  1. Guo T, et al. Cardiovascular implications of fatal outcomes of patients with coronavirus disease 2019 (COVID-19). JAMA Cardiol 5(7):1-8, 2020.

2020/08/04抄読

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A Fiery Pivot -Clinical Care Conundrums-

J. Hosp. Med. 2020; 15: 419-423.

症例

転移性非小細胞肺癌(NSCLC)の62歳男性が、3日間の経過で増悪する全身倦怠感、食欲不振、非血性下痢のために救外を受診した。発熱、悪寒、嘔気・嘔吐、咳、息切れ、腹痛はなかった。2日前に非重症のCD腸炎と診断され、MNZの内服を開始したが、翌日から下痢は悪化した。8ヶ月前に、対側肺と局所リンパ節、多発性の骨転移を認めるNSCLCと診断された。腹部臓器への転移は認めなかった。最初にCBDCA + PTXによる治療を受け、3ヶ月前にGEMに変更し、5サイクル投与された。最後にGEMを投与したのは2週間前であった。直近に出血、外傷、喀血、下血、血便、血尿は認めなかった。
 体温36.8℃、血圧158/72 mmHg、脈拍88回/分、呼吸数16回/分、酸素飽和度96%。黄疸はなかったが、軽度の結膜蒼白を認めた。腸音は正常。白血球数5,500/μL、Hb 5 g/dL(1ヶ月前10.1 g/dL)、血小板20,000/μL(1ヶ月246,000/μL)、Cr 3.9 mg/dL(普段1.8 mg/dL)、BUN 39 mg/dL、Na 137 mEq/L、K 4.2 mEq/L、Cl 105 mEq/L、HCO3- 22 mEq/L、T.Bil 0.5 mg/dL、D.Bil 0.2 mg/dLであった。

CD感染症と溶血

がん患者が新たな症状を呈した場合、がん関連徴候と非がん関連徴候の両方を検討する必要がある。がん関連徴候には、腫瘍自体の合併症(腫瘍の圧迫など)、腫瘍随伴症状、治療関連合併症(免疫抑制や化学療法の毒性による感染症など)といった、幅広い病態が含まれる。がんとは無関係の病態も考える必要がある。
本症の様な重篤な貧血では、緊急疾患を考慮しなければならない。明らかな出血がない場合の急性貧血は溶血が疑われ、DICやTTP等のTMAを鑑別する必要がある。本症例の血液塗抹標本には破砕赤血球は見られなかったが、非常にまれであるが特異的な所見であるpyropoikilocytosis(熱変形赤血球)が認められた。pyropoikilocytosisは熱傷患者、薬剤誘発性TMA、細菌性血流感染症(主にグラム陰性桿菌とClostridium感染症)にのみ見られる、非常に特徴的な所見である。またまれではあるが、CD感染症に続発したHUSが報告されている。


参考文献
  1. Alvarado AS, et al. Hemolytic uremic syndrome associated with Clostridium difficile infection. Clin Nephrol. 2014;81(4):302-6.

2020/07/28抄読

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Cryptic Cachexia 謎の悪液質

N Engl J Med 2020; 383: 68-74.

症例

6年前に直腸癌の治療で人工肛門を形成した57歳男性が、6か月間に22.6 kgの体重減少(BMI 23.9→16.6)、増悪する倦怠感と衰弱のため、ADLの遂行が妨げられるようになった。腹部膨満と下肢痛も見られた。人工肛門の排泄物は軟らかく茶色の有形便で、血便、粘性便、脂肪便ではなかった。直腸癌術後の定期観察で再発は否定的。患者は喫煙歴、アルコールや違法薬物の摂取、ホームレス歴、投獄歴、結核曝露歴はなかった。食生活の乱れもなかった。患者はプエルトリコ生まれのヨーロッパ系で、19歳の時に米国に移住した。数年前から散発的な腰痛のために、週に数回イブプロフェンを内服する以外に、服薬薬はなし。理学療法を受けていたが、腰痛は徐々に増悪した。体温37℃、心拍数110/分、血圧94/60 mmHg。頻呼吸、浅呼吸であった。悪液質であり、上肢、下肢、側頭筋の消耗を認めた。水平性眼振を認めた。表在リンパ節腫脹は認めなかった。腹部は腹水で膨隆し、下肢に皮膚色素沈着があった。

POEMS症候群

Tropheryma whippleiによる稀な感染症であるWhipple病は、関節症状の早期ステージと、体重減少や下痢、多数の臓器浸潤を認める晩期ステージに分けられる。他にも、眼症状、中枢神経症状、肝・脾腫、胸膜炎、腹水、弁膜症、感染性心内膜炎、腹腔内リンパ節腫脹などを認める。早期には古典的症状を呈さないため、症状が多岐にわたるため、診断が遅れる。T.whippleiは自然環境下に存在し、約35%の健常人の唾液から検出された報告もある。よって、感染・発症には個体の疾患感受性が存在していると考えられる。内視鏡では十二指腸~空腸のびまん性の白色繊毛を伴う浮腫状粘膜が特徴的で、組織所見では粘膜固有層にPAS陽性の封入体を有する泡沫状マクロファージを認める。


参考文献
  1. 蔵原晃一、他.Whipple病-Tropheryma whipplei感染症-.消化器内視鏡2019. 31;(増)128-131.

2020/07/21抄読

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A Protean Protein -Clinical Care Conundrums-

J. Hosp. Med. 2019; 14: 117-122.

症例

39歳男性が3週間に渡って進行する下肢の脱力と、足と趾の痺れのために、神経内科を受診した。既往歴は高中性脂肪血症、性腺機能低下、痛風。神経疾患の家族歴なし。飲酒、喫煙なし。神経学的所見では、上肢の筋力と感覚は正常。腱反射は、腕は微弱、膝蓋腱とアキレス腱は消失。下肢に対称性、長さ依存性の振動覚、位置覚、触覚の低下を認めた。筋力は両側腰部屈筋、膝の屈・伸筋はMMT4/5、両側足首屈・伸筋は3/5。EMG、神経伝導検査では、両側上下股に軸索性・脱髄性の混在する、運動・感覚神経の多発神経障害の所見。髄液はWBC 1/μL、糖 93 mg/dL、蛋白 313 mg/dL。単純脊髄MRIは正常。Vit.B12正常、HIV-1/2陰性、HCV抗体陰性、ボレリア抗体陰性、血清蛋白免疫電気泳動、免疫固定法は正常所見。後天性の免疫介在性ニューロパチーが疑われ、2コースのIVIGを受けたが、次の数週間で車椅子が必要になるまで筋力低下が悪化した。

POEMS症候群

POEMS症候群は末梢神経障害のためにADLが著しく障害され、四肢麻痺、多臓器不全に至る予後不良な疾患である。多彩な身体徴候や検査所見のために鑑別に難渋し、診断が遅れることも多い。形質細胞のモノクローナル増殖を基盤にする疾患であるが、M蛋白量は微量であり、正常免疫グロブリンの抑制もきたさない。本症例のようにM蛋自の濃度が非常に低い場合、免疫電気泳動では検出不可能であり、血清免疫固定法を試みて繰り返す必要がある。


参考文献
  1. 中世古知昭.POEMS諸侯群(Crow-Fukase症候群)・血液専門医の視点より.腎と透析.2019、86(増刊).299-301

2020/07/14抄読

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Last Resort -Clinical Care Conundrums-

J. Hosp. Med. 2019; 14: 568-572.

症例

2-3週間続く腹痛と早期満腹感のある膨満感を訴えた、既往に喘息のある22歳男性。数ヶ月間に20ポンドの体重減少、腹囲増加と下肢・陰嚢・腹壁・仙骨部の浮腫、軽度の労作時呼吸困難があった。体温38.1℃、心拍数138/分、血圧123/86 mmHg、呼吸数20回/分、SPO2 97%。黄疸、表在リンパ節腫脹はなく、心雑音、漿膜擦過音、ギャロップ音、頚静脈怒張もなかった。腹水、浮腫を認めたが、神経学的異常所見は認めなかった。Hb 7.8g/dL、血小板 53,000/μL、WBC 10,600/μL、ALP 217 U/L、Alb 2.7g/dL、フェリチン1,310 ng/mL。血液内科に紹介され、骨髄生検と腋窩リンパ節生検が施行されたが、リンパ増殖性疾患や悪性腫瘍を示唆する所見はなく、確定診断に至らなかった。

TAFRO症候群

本邦の多中心性キャッスルマン病(multicentric Castleman's disease; MCD)のほとんどは、HIVもHHV-8も陰性のidiopathic MCD (iMCD)である。高IL-6血症に基づく多クローン性高γグロブリン血症、発熱、貧血、血小板増多などの全身症状を呈する、原因不明の炎症性疾患であるが、欧米の症例に比べると緩慢な経過をとる。 日本のiMCDの中に、胸腹水貯留、血小板減少など重症の臨床所見を認める例があることが報告され、TAFRO症候群が提唱された。TAFRO症候群はiMCDに比べIL-6上昇は軽度で、高γグロブリン血症や血小板増多を認めず、むしろリンパ節胚中心はatrophicであり、血小板も低下するなど、iMCDとは逆の所見を呈する。TAFRO症候群は漿膜炎を主体とした独立した疾患概念とする説もある。


参考文献
  1. 正木康史.TAFRO症候群とキャッスルマン病.成人病と生活習慣病.2018. 48; 1371-1376.

2020/07/07抄読

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Case 18-2020: A 73-Year-Old Man with Hypoxemic Respiratory Failure and Cardiac Dysfunction

N Engl J Med 2020; 382: 2354-64

症例

COVID-19パンデミック中の2020年3月、73歳男性が急性低酸素性呼吸不全のためボストンの大学病院ICUに搬送された。6日前までは通常の健康状態であったが、乾性咳嗽、発熱、倦怠感の増悪が生じた。4日前、地元の病院の救急外来を受診した。体温は38.8℃、血圧94/62 mmHg、心拍数91/分、呼吸数12/分、Sp02 97%、全身状態は良く、呼吸音は清。白血球 5600/μL(Nt 56%、Lym 33%)。SARS-CoV-2 RNAのPCR検査が施行された。CTでは両肺の末梢側優位に1-1.5cmの円形のスリガラス陰影を多数認めた。オセルタミビルが処方され、自宅療養が指示された。その後も症状は持続、呼吸困難を生じたため、救急外来を再度受診。彼は倦怠感、頻呼吸、苦悶様であった38.6℃、血圧158/91 mmHg、心拍数 108/分、呼吸数28/分、Sp02 90%。気管内挿管され、ヘリコプターでボストンの大学病院ICUに搬送された。

COVID-19と心臓障害

急性心筋障害はCOVID-19の重要な予後因子である。一部のCOVID-19患者は急速に状態が悪化するが、心血管系合併症が引き金のことがある。COVID-19における心血管イベントには心筋障害、心筋炎、心拍出量低下性心不全、不整脈、急性冠症候群が挙げられる。COVID-19による急性心筋障害の原因は、冠動脈のプラーク破裂、冠動脈の微小血栓や攣縮、血管内皮細胞の損傷、サイトカインストーム、低酸素血症、酸素の需要と供給の不均衡、呼吸性アシドーシス、陽圧換気による右心室後負荷の増加等、様々な病態が考えられている。


参考文献
  1. Shi S, et al. Association of Cardiac Injury With Mortality in Hospitalized Patients With COVID-19 in Wuhan, China. JAMA Cardiol 2020. doi:10.1001/jamacardio.2020.0950

2020/06/30抄読

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The Game Is Afoot

N Engl J Med 2020; 382: 2249-55.

症例

63歳女性が数ヶ月持続する両足首痛を訴えた。2年前に転倒して、左腔骨プラトー骨折をした。骨折関連痛は理学療法で軽減したが、その後、膝痛が出現し、左大腿骨内顆骨折を新たに指摘された。保存的治療にて痛みは再び軽減した が、その後両足首に痛みが進行し、松葉杖と杖を使用するようになった。既往歴に乳癌があり、乳腺摘出術と5年間のタモキシフェン投与を受け、10年前に治療は完了した。治療後、毎年のマンモグラフィ-と検査には異常はなかった。

腫瘍性骨軟化症

FGF23は骨細胞で産生され、尿細管でリン再吸収とビタミンD活性化を抑制する生理的なリン調節因子である。ところが、腫瘍がFGF23を過剰産生し、低リン血症によって骨痛、偽骨折、骨折、筋力低下などを呈する、腫瘍性骨軟化症tumor induced osteomalacia(TIO)と呼ばれる病態がある。病理学的にはphosphaturic mesenchymal tumorと診断される特異な間葉性腫瘍であり、四肢や頭頸部に好発する比較的小さな良性腫瘍であることが多い。


参考文献
  1. Medieal Practice.34,1852-54, 2017.

2020/06/23抄読

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Case 17-2020: A 68-Year-Old Man with Covid-19 and Acute Kidney Injury

N Engl J Med 2020; 382: 2147-2156

症例

68歳男性が発熱、息切れ、急性腎障害で入院となり、SARS-CoV-2陽性であった。患者は糖尿病、高血圧、高脂血症、冠動脈疾患、肥満、睡眠時無呼吸症候群の既往症があった。4日前に悪寒戦慄を伴った39。9℃の発熱を認めた。食欲が無く、糖尿病に対する長時間作用型のインスリン投与を中止した。入院の前日に乾性咳嗽、当日朝に息切れを自覚した。呼吸数40/分、Sp02 94%、中等度の呼吸促迫があり、肺底部にびまん性のcoarse cracklesを聴取し、胸部X線で両肺に多発性の浸潤影を認めた。BMI 37。1、Cr 1。3 mg/dL。入院3時間後Sp02 87%に低下、5時間後が更に酸素化が低下し、ICU入院。その16時間後に挿管・人工呼吸を導入。その24時間後血圧が78/45mmHgまで低下し、ノル工ピネフリンを開始。入院3日目Cr 1。8 mg/dL、8日目Cr 6。9 mg/dL、UN 111 mg/dL、代謝性と呼吸性の混合性アシドーシスを生じた。

COVID-19と急性腎障害(AKI)

COVID-19入院患者5、449名のうち、36。6%の患者にAKIが発生した。AKIはstage-1が46。5%、stage-2が22。4%、stage-3が31。1%で、14。3%は透析を必要とした。AKIは呼吸不全と関係があり、人工呼吸中の患者の89。7%、自発呼吸の患者の21。7%に発生した。逆に、透析患者の96。8%が人工呼吸を必要とした。


参考文献
  1. Hirsch JS, et al. Acute Kidney Injury in Patients Hospitalized With COVID-19. Kidney Int. 2020. doi: 10.1016/j.kint.2020.05.006.

2020/06/16抄読

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Case 15-2020: A 79-Year-Old Man with Hyponatremia and Involuntary Movements of the Arm and Face

N Engl J Med 2020; 382: 1943-50

症例

79歳男性が低Na血症と腕と顔面の不随意運動のために入院した。患者は5週間前までは健康だったが、その後に倦怠感が生じた。3週間前にかかりつけ医で低Na血症が認めら、救急科を受診した。Na 123 mmol/Lであり、生食の点滴とヒドロクロロチアジドの中止を指示された。1週間後、左肘と手首が屈曲する不随意運動が生じた(dystonic seizureと表現)。時間は5秒未満、1日に何度も生じ、持っていた物を落とした。妻は発作時に患者の顔の左側が引きつることに気がついた。頭部MRIにて脳室周囲と皮質下白質に高信号の散在が見られた。

低Na血症と特徴的な不随意運動

低Na血症についてはガイドラインもあり、アルゴリズムに従って診断する。この場合はSIADが示唆される。しかしこの症例では、毎回同様の、短時間の手と顔面のdystonic seizureを認めており、SIADの神経症状と帰すには無理があると考えられた。


参考文献
  1. Spasovski G, et al. Clinical Practice Guideline on Diagnosis and Treatment of Hyponatraemia. Nephrol Dial Transplant. 2014 Suppl 2:i1-i39.
  2. 松本理器, 他. くすぶり型辺縁系脳炎とfaciobrachial dystonic seizure. 神経内科 9: 712-717, 2013.

2020/06/09抄読

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Hiding in the Water

N Engl J Med 2020; 382:1844-1849

症例

59歳女性が3ヶ月続く消化不良と食欲減退を訴えた。上腹部不快感は鋭く、右上腹部に放散し、食事や腸蠕動と関係なく、希に症状のために夜間覚醒した。悪寒を伴った39.9度の発熱と、腕・腰部・臀部に広がる、掻痒感のある紅斑を 認めた。3ヶ月前のイタリア旅行中に、クレソンとケールをブレンドしたグリーンジュースを飲んで約3時間後に嘔吐と数回の失神を認め、その後からこの上腹部症状が出現した。WBC 10、900/μL(好酸球37%)であった。

好酸球増加と寄生虫感染症

好酸球増加で気付かれる、現在の日本に多いと寄生虫感染症は、イヌ(やブタ)回虫症と肺吸虫症である。食肉、ジビエ類、淡水魚類などを、刺身や夕タキなど十分に加熱しないで摂取することによって感染する、食品由来感染症であり、典型的には成人の病気である。  今回の肝蛭症は、頻度は高くないが、ウシ、ヒツジ、ヒトに寄生する人畜共通感染症である。ウシレバ-刺の生食で感染した症例もあるが、今回のCaseのように、クレソンに付着しているメタセルカリアを偶然摂取して感染した症例報告が、わが国からもある。


参考文献
  1. 丸山治彦.好酸球浸潤と寄生虫感染症.成人病と生活習慣病.2015. 45(7); 909-908.
  2. 日本におけるクレソン摂食により感染したヒト肝蛭症の1例.日本病院総合診療医学会雑誌.2013, 5(2),

2020/06/02抄読

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