肺がん

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肺がん

肺がんのステージについて

肺にできた肺がんは「原発性肺がん」と呼び、大腸がんなど他の臓器にできたがんが肺に飛んでくる「転移性肺がん」と区別されます。原発性肺がんの治療を始める前には全身を検査してステージ(病期)を決めます。ステージを決める細かいルール(がん取り扱い規約)は年々変更されますが、おおむね下の図のようになります。

Ⅰ期とⅡ期は手術療法を検討し、Ⅲ期以上の進行がんでも他の治療と組み合わせて手術を行うことがあります。

肺がんのステージ(病期)

肺がん手術:どのような創(きず)で手術をするか

肺がんの手術は年々進化しています。がんが出来た肺を取る時に「どのような創で手術を行うか」と「どれくらい肺を取るか」を組み合わせて考えます。

まずはどのような創で手術を行うか、そのアプローチ方法をご紹介します。

1.ロボット支援胸腔鏡下手術(RATS)

最近の肺がん手術の最大のトピックスはやはり「ロボット手術」でしょう。条件を満たした病院で資格を持つ呼吸器外科医が行うことで保険適用になっており(費用的にも他の肺がん手術と同様)、中播磨・西播磨地域では2019年7月に当科が最初に始めました。ロボットと言っても実際には“胸腔鏡手術”を手術支援ロボット“ダヴィンチ”を使って行うもので、正式には“ロボット支援胸腔鏡下手術(Robot-assisted Thoracic Surgery:RATS(ラッツ))”と呼ばれる手術です。

ロボット手術は高度なチーム医療

“ダヴィンチ”では患者さんの身体と離れた操作卓(コンソール)でロボットを操作する術者(da Vinci console surgeon 認定:ダヴィンチ操作の資格を取得した呼吸器外科専門医)と、患者側の助手(当院では助手も呼吸器外科専門医)、麻酔医、看護師、臨床工学士との高度なチーム医療です。当院はこれまでに泌尿器科でたくさんのロボット手術の実績があり、院内のロボット手術の実施体制が確立され、安全にロボット手術を提供できます。当院には現在、ダヴィンチのコンソール資格の医師2名と第一助手資格の医師1名が在籍しています。

ロボット手術は高度なチーム医療:手術支援ロボットの“ダヴィンチ”を用いるRATSは患者さんの身体と離れた操作卓(コンソール)でロボットを操作する術者(da vinci console surgeon 認定:ダヴィンチ操作の資格を取得した呼吸器外科専門医)と、患者側の助手(当院では助手も呼吸器外科専門医)、麻酔医、看護師、臨床工学士との高度なチーム医療です。当院は泌尿器科でたくさんのロボット支援手術の実績があり、院内のロボット支援手術の実施体制が確立されています。

術者によるロボットアームの操作
左右の指で操作します
患者さんに3-4本のロボットのアームを挿入し、助手がアシストします。
呼吸器外科医、麻酔医、看護師、臨床工学士のロボット支援手術チーム
RATSの特徴

RATSは高解像度3Dカメラにより目標物に接近してかつ立体的に見え、先端に関節のあるダヴィンチの手術器具のち密な動き、また手振れ防止機能による安全で繊細な動きなどが外科医にとっての利点です。我々が実際に行った印象では従来の長い道具を使う胸腔鏡手術の延長ではなく、大きく胸を開く「開胸手術」で行う操作を「胸の中に入って」行っているイメージです。特にがんの手術に必要なリンパ節郭清(かくせい)に優れる可能性が報告されています。

手術支援ロボット“ダ・ヴィンチ”の特徴
ロボット手術 血管の“裏面”の観察
RATSによる拡大視で行うリンパ節郭清
RATSの術後創 左:真横からみたところ、右:背中側
RATSの創について

RATSは肋骨のすき間に1cm 程度の創3~4か所と助手が使う3㎝の創(肺を摘出する創)で手術を行います。従来の胸腔鏡手術より創の個数は多くなりますが、RATSの道具は胸の中の関節部分で自在に動くので、ロボットの腕が肋骨にかける力が少なく(「てこ」の力がかからない)、術後の痛みが少ない傾向にあるとも言われています。

RATSの弱点

RATSでは臓器に触れることが出来ない、見える方向に制限がある、器具の種類が限られなどの理由から、太い肺動脈にテープをまわす操作が必要とされるような進行がん(ステージⅡ以上)や、喫煙やじん肺、感染の合併など血管やリンパ節の炎症が強いと予想される症例には現時点では不向きと考えています。

ガイドラインにおけるRATS

日本肺癌学会による「肺癌診療ガイドライン(2018年版)」(以下ガイドライン)では“臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌に対して、ロボット支援下肺葉切除を推奨するだけの根拠が明確ではない(推奨度決定不能)”となっています。これは我が国の肺がんに対するロボット手術はまだ歴史が浅く、術後の長期成績のまとまった結果が出せていないことためです。従ってダヴィンチは外科医が操作しやすい利点があっても、肺がん治療としての従来の方法よりも優れた効果があるか、また従来の手術と比べて材料費がかかる(患者さんの負担は同じですが)ことなども考慮して患者さんの利点を慎重に検討している段階です。当院では現時点では医学的な条件を考慮してRATSを行っています。詳しくは診察時にお問い合わせください。

2.完全鏡視下胸腔鏡手術(complete VATS)

胸腔鏡手術は現在のI期肺癌の標準的手術

肺がんに対する内視鏡手術である胸腔鏡を用いた手術(Video-assisted Toracic Surgery:VATS(ヴァッツ))は世界的に拡大しましたが、当院ではその中でも骨も切らず2〜3センチの穴3か所で行う「完全鏡視下胸腔鏡手術」が行えます。胸腔鏡手術も開始から25年以上経過しました。当初は現在のロボット手術と同様に肺がんに対する適応は慎重であることが要求されていました。その後、技術と器具の著しい進歩により現在ではガイドラインでも“臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌に対して、胸腔鏡補助下肺葉切除を行うよう提案する”となっています。当院では進行がんや3㎝の穴からは取り出せないような大きな肺がん以外はこの手術を行っています。

左:完全鏡視下手術の3か所の創、右:術者と助手はそれぞれのモニターを見ます
術者と助手が共同で手術を進めています

3.単孔式胸腔鏡下手術(Uniportal VATS)による肺がん手術

痛みが最も少ない単孔式

米国でロボット手術が普及する一方で、中国やヨーロッパの一部では肺がんに対する単孔式胸腔鏡手術が行われています。「単孔式」は文字通り1つの孔(あな)で手術を行う方法ですが、従来の胸腔鏡手術用の器具では難しく、長くて曲がりのある専用の器具を使うことで安全に行えるようになってきました。創が少ないことは当然ながら痛みが少なく、“見た目”にも利点はあります。ただしがんの手術におけるリンパ節郭清は、ロボット手術や従来の3つの創で行う胸腔鏡手術と比較するとやり難い印象があるため、当院においては早期肺がんや転移性肺がんなどの医学的条件が当てはまる場合にのみ行っています。

左:長い単孔専用の器具、中:4㎝の創、右:内視鏡と器具が複数入っている様子
左:助手が内視鏡を持ちます、右:肺動脈を糸でしばっている様子

4.三種類の胸腔鏡手術の違いは?

当院の胸腔鏡手術の創
同じ施設で手術法を使い分けています

当院では完全鏡視下、単孔式、そしてロボットの3種類の肺がんに対する胸腔鏡手術を行っています。手術の創は図のように違いがありますが、胸の中で肺がんの治療のために行うべきことは同じです。単孔式やロボット手術は比較的新しい手術方法で、現在も学会でその長所・短所が議論されています。例えばダヴィンチが無い病院ではロボット手術が行えませんが、当院のようにひとつの病院でこれらの手術を行うことで、長所と短所がより把握できると考えています。

特に単孔式とロボット手術は安全性を第一に患者さんに不利益が無いように、がんの進行度、個人差がある“肺の分かれ方” や“血管の走行”、タバコの影響などを総合的に判断した上でそれぞれの術式を患者さんに提案しています。

5.開胸手術

進行がんや緊急時には開胸手術

肺は肋骨で囲まれていることから、昔は皮膚や筋肉を20〜25㎝切り、さらに肋骨を切って金属製の開胸器で肋骨を押し開いて手術を行っていました。この方法を“開胸手術”と呼びますが、術後の回復に時間がかかり、強い痛みを伴うことが大きな問題でした。しかし、現在では開胸手術の時も胸腔鏡やヘッドライトを使用し、創の長さも10〜15㎝程度で肋骨も切らないこともあります。また拡大鏡を使用すれば肉眼で見るよりも細かな作業が可能です。

開胸手術
開胸手術は手が入るので困難症例や緊急時にも今も有用

肺の血管は心臓と直接つながっており、損傷すると命に関わる大出血を起こすことがあるます。進行がんの場合は、肺の心臓寄りの血管を一時的に遮断して出血を予防する技術が必要です。この操作はやはり現在のロボット手術や3㎝の創では困難で、また大きながんの場合も3㎝の創からは取り出せないため、開胸手術になります。大きな肺がん、リンパ節に明らかに転移をした肺がん、周囲の血管や骨を巻き込んだ肺がんなどの進行肺がんなどはこの方法で手術を行います。

肺がん手術で肺をどれくらい切除するか

肺は右肺が3つ、左肺が2つの「肺葉」に分かれています。

1.肺葉切除

ガイドラインでは“臨床病期Ⅰ~Ⅱ期非小細胞肺癌で外科切除可能な患者に対する術式は、肺葉以上の切除を行うよう推奨する”と記載されています。従って肺がんの「根治的手術」はがんが出来た肺葉をまるごと切り取る「肺葉切除」が基本です。さらにガイドラインでは手術の際に“肺門縦隔リンパ節郭清を行うよう推奨する”とも記載されており、肺葉切除に加えてがんが出来た肺葉ごとに決められた範囲のリンパ節を採取(郭清)することで根治手術を行ったことになります。

「がんサポートより」https://gansupport.jp/article/cancer/lung/lung01/2814.html

肺葉切除は肺の外(入口)で肺動脈、肺静脈、気管支を切除する手術で、現在では自動縫合器を使うことが多く、後述の“区域切除”と比べると手術の手間は少ないことが多いです。

右肺下葉切除の様子

2.区域切除

肺葉切除は根治的手術ですが、右肺下葉などの大きな肺葉を切除してしまうと高齢の患者さんやCOPD(肺気腫)などで肺の働きが弱った患者さんでは、術後の生活に負担になる場合もあります。またCTで偶然見つかったようなごく早期の肺がんや小型の肺がんの場合は肺葉切除を行わなくても根治性が保てる場合もあります。さらに転移性肺がんの多くは原発性肺がんと異なり腫瘍が取り切れればよい場合が多く、必ずしも肺葉を取る必要はありません。このような患者さんに対しては葉切除よりも小さな単位で肺を切除する「区域切除」を行います。

ガイドライン上は“臨床病期ⅠA期、最大腫瘍径2cm以下の非小細胞肺癌に対する縮小手術(区域切除または楔状切除)は行うよう提案する”、“臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌で外科治療が可能であるが、肺葉切除以上の切除が不可能な患者に、縮小手術(区域切除または楔状切除)を行うよう提案する”と記載されています。

一方で区域切除はスポンジのような構造の肺の中を切り進んでいくために、上手に行わないと残すべき肺や血管を傷つけたり、術後に肺からの空気漏れが続いて困るなど難しい手術です。当院では撮影したCT画像から肺の中の肺動脈、肺静脈、気管支を立体的に色分けして映し出す3-Dシミュレーターを使って、医師が肺の中の様子を手術前に確認して安全で正確な区域切除を行っています。

さらに手術中に血漿タンパクと結合し励起光をあてると光る性質があるインドシアニングリーン(ICG)を注射して、肺の血流の境界を蛍光で確認する肺区域間同定法も導入しています(ICGは検査薬として広く利用され安全性が認知された薬剤です)。

以上のように肺がんに対する手術療法は、「どのようなアプローチで」「肺をどれくらい切除するか」の二つの側面から検討していくことになります。

当院での原発性肺がんに対する術式

2016年度 2017年度 2018年度 2019年度
手術総数 39 50 69 96
肺葉切除以上 34 27 42 75
区域切除 2 7 15 12
部分切除、その他 3 16 12 9

参考:ダヴィンチのロボット支援下肺がん手術は2019年7月に開始し、2020年5月迄で17例施行しています。