乳がんの手術について

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乳がんの手術について

わきの下のリンパ節の郭清

乳癌の手術では、わきの下のリンパ節を切除することがほとんどです。それはなぜでしょう。

私たちの体には血管のほかに、「リンパ管」という管が張り巡らされています。

リンパ管には、病原体などの外敵から体を守るリンパ球をたくさん含ん だリンパ液が流れています。

このリンパ管の道筋にある小さな器官を「リンパ節」と呼んでいます。まさに体の下水処理場です。

成人の場合は、この300~600個のリンパ節が、全身のリンパ管に点在しています。

リンパ節には多くのリンパ球が集まっており、そこで、リンパ液の中の異物や病原体、毒素などが濾過されて取り除かれています。乳房に最も近いわきの下にも、リンパ節がだいたい30個ほどあります。

乳管の外に広がった浸潤ガンの場合、リンパ液の流れに乗って、わきの下のリンパ節 にたどり着いたガン細胞が、全身に転移する危険性があります。これを防ぐために、手術の際に、わきの下のリンパ節の切除が行われます。これを「リンパ節郭清」といいます。またわきの下のリンパ節の郭清を行なうことで、リンパ節にどれくらいガンがとんでいるか、把握することができます。この程度はその患者さんの予後にはっきりと相関することがわかっており、その意味で大変重要な検査ともいえます。

リンパ浮腫について

乳癌手術の後の上肢浮腫は、腋(わき)の下のリンパ節を切除することや、温存切除をした後の放射線治療の後遺症として現れる症状です。手術や放射線治療によって腕から体に帰っていくリンパの流れが悪くなるために起こるとされています。報告によれば、たとえ放射線治療をしていなかったとしても、乳癌の手術を受けるだけで、20年間で約半数の患者さんに上肢浮腫が発症し、そのうち8割は術後3年以内に、その後も1年間に約1%ずつ発症するとされ、たとえ現在、腕が腫れていないとしても長期にわたり発症の危険性があります。しかしこうした合併症は、日常生活に気をつけることである程度まで防ぐことが可能で、またたとえ発症しても、改善することができます。目を背けることよりも、まずしっかりと学び、正しい知識を持つことが重要なことは、どのような病期であっても同じです。どうかもうしばらく、この話に付き合ってください。

  • 上肢浮腫の治療

    リンパの流れが悪くなって生じる上腕浮腫は、いったん悪くなってしまうと、完全に治す方法は見つかっていません。しかし、発症早期から正しい治療 を行うことによってその約8割が改善するといわれています。その治療は理学療法と呼ばれる、マッサージ、運動などの物理的な治療です。お薬で治療する方法は見つかっていません。リンパ管を静脈につないで、リンパの流れを元に戻してやる手術方法がありますが、成功率が低いと報告されています。一過性に良く なっても長期間効果が持続しないようです。治療として重要なのでは日ごろの手入れです。ここでは、手術で壊れてしまったリンパの流れの代わりをしてくれるリンパ管の発達を促進して、健康なリンパの流れに近づける治療方法を紹介します。ここで示す方法は、複合的理学療法(CDP:complex decongestive physiotherapy)と呼ばれ、おもにドイツで発達した治療方法です。CDPとは、以下の4つの治療を総括的に行い、浮腫の軽減を図る方法です。

    • スキンケア:皮膚が乾燥しないように軟膏を用いて、女性が顔に行うようなスキンケアを常に心がける。

    • manual lymph drainage(MLD):まず体の、そして腕のマッサージを行います。

      やり方は正しいやり方で行う必要があり、誤った方法でマッサージすると、かえって悪くすることがあります。

      当院では専門のリハビリ療法士が待機していますので、一度指導を受けてください。

      ※MLDとは?手を使って周囲を巡るように柔らかくマッサージすることにより、 リンパ管の活性を高め、正常なリンパ節に向かってリンパの流れを促す方法。皮膚の上に軽い圧迫を加えつつ皮膚を「ずらす」ことを基本とする。揉み込むようなマッサージは絶対避ける。

    • 圧迫療法:リンパ浮腫専用の伸縮性の少ない弾性包帯を用い、指先からわきの下まで圧迫しながら巻いていきます。包 帯で絞りながら腕のリンパ液を体に戻していくイメージです。包帯をうまく自分で巻けない人や外出時などは、弾力性の強い腕用のストッキング(スリーブ)が売られていますので、これで代用します。なおこのストッキングは行政から購入時に補助金が出ます。外科外来でご相談ください。

    • 浮腫減退運動療法:上の③の処置の後、疲れない程度の決められた運動を行います。

    次に、自宅でできる簡単な対処方法を示します。

    • 熱を持ったり、赤くなったりして炎症のある場合は必ず冷やす。
    • 浮腫のある腕を高く掌上する。
    • リンパ液を体にもみ戻すようなセルフマッサージを丁寧に行う。
    • 圧迫包帯・スリーブをできれば1日中装着する。
    • 腫れた腕はあまり長時間重労働に用いない。
    • 波動型マッサージ器(決められた時間でしまって緩むを繰り返すマッサージ専用の器械)を用いる(ただし補助的に)。
  • 上肢浮腫の予防

    上肢浮腫は、わきの下のリンパ節を手術でどのくらい切除するかの程度によって次第に増加します。(ほとんど取らない場合で0~2.8%、わきの下を全部取れば2.7~5.0%、首の近くまでしっかり取れば3.1~9.6%)さらにわきの下に放射線があたれば2~7倍増加するとされます。したがって、癌を残さないことを原則としてきちんと守りながら、なるべくわきの下のリンパ節を残し、不必要な放射線照射を避ければ、上肢浮腫は防ぐことができるのです。最近ではさまざまな手術方法が開発されており(センチネルリンパ節生検参照)こうした合併症を防ぎつつ、ガンをしっかり治すことを我々はいつも心がけています。

    患者さんが気をつけるべき予防方法としていくつか上げてみます。最も重要なことは、腫れている腕に怪我をしない、虫に刺されない、傷をして細菌が入らないようすることと、手術の後、太らないようにすることです。腕のケガや感染、それと体重の増加は間違いなく浮腫を悪くすることが調査で証明されています。掃除や洗濯、料理など普段の生活で腕を使うこと、職業、スポーツ、趣味などは関係がないとされています。とはいえ怪我をしようとして怪我をする方はいないので、たとえば庭掃除をするときには長袖の服を着るように心がけるのは一つの方法です。

    まとめですが、

    • 悪い方の腕をつねに清潔にたもち、スキンケアをきちんとして乾燥させないこと
      ※感染、外傷(虫さされ、病院での採血、爪切り、庭掃除による小さいケガ)を避ける。
    • 術後体重増加に気をつけることが重要です。
      ※特に体重増加ははっきりとした関連性が指摘されています。気をつけていきましょう。

乳房温存切除を希望される方へ

乳房温存切除は、簡単に言えば乳房のうち、ガンの部分をとって、乳首を含めて乳房を残す手術方法です。

ガイドラインでは 「乳房温存療法はステージⅡ期(しこりの大きさは3cm以下)までの人にお勧めできる治療です。また、非浸潤性乳管がんの人でも選択肢の一つになります。」とされています。

たとえば最初に見つかったときにはガンが大きく、乳腺を残せない状況であっても、先に述べた抗がん剤の効果が期待できるタイプのガンである場合には術前に抗ガン剤投与を行なうことによって、小さくしてから手術をすることもできます。したがって現在ではほとんどの方が適応となります。

しかし学会によって決められている、温存治療を受けられる方にかならず話しておかないといけない4つの不利益があります。

  • 程度に差はありますが、かならず変形するということ

    これは当然とわかっていただけると思います。

    特に乳腺の下半分にガンがある場合は変形が目立つ傾向にあります。

  • 術後に放射線治療が必要です。

    ガイドラインでは「手術後の放射線療法は、温存した乳房や乳房を切除したあとの胸壁、その周囲のリンパ節からの再発を防ぐために行い、すべての乳房温存手術後の患者さん、および乳房切除術を受けた患者さんのうち、わきの下のリンパ節に4個以上転移があった患者さんや、しこりの大きかった(5cm以上)患者さんには、手術後の放射線療法が勧められます。」とされています。

    ▼副作用に関して

    放射線療法中と終了後まもなく現れる副作用

    放射線照射による副作用が現れるのは照射した部位に限られますので、乳がんの場合は、胸壁、周囲のリンパ節領域です。頭髪の脱毛やめまいなどはなく、吐き気や白血球減少もほとんど起こりません。放射線を当てている間に痛みや熱さを感じることもありません。放射線がからだに残ることもありませんので、家に帰った後、乳幼児などを抱いても安全です。照射期間中に、疲れやだるさを感じる患者さんもいますが、基本的には日常生活や仕事をしながら受けることが可能です。開始して3~4週間後くらいで、放射線が当たっている範囲内の皮膚が日焼けのように赤くなり、ひりひりすることがあります。

    放射線療法終了後しばらくして現れる副作用

    「放射線療法が終了して、数カ月~数年後に出る副作用を晩期の副作用といいます。放射線が肺にかかることによって起こる肺炎はまれですが、治療後数カ月以内に100人に1人くらいの割合でみられることがあります。咳や微熱が長く続くときは病院(できれば照射を受けた病院)を受診してください。「放射線療法を受けた」という情報が重要ですので、医師にその旨を伝えてください。放射線による肺炎は適切な治療により治癒します。治療後数カ月以降にみられる副作用の頻度は少なく、あまり問題となりません。」 とあります。

    代表的な事柄を抜粋しましたが、できればガイドラインそのものを参照いただくことを勧めます。

    放射線治療は乳房再建に大きな影響を与えることを承知しておく必要があります。これに関しては「放射線療法は、皮膚にダメージを与え、皮膚が弱くなったり、伸びにくくなったりするため、放射線治療を受けたあとに人工乳房を用いての再建はうまくいかないことがあります。乳房切除術を受けた人でも、腋窩リンパ節転移が多数の場合は胸壁に照射をすることがあります。放射線療法後の人工物による二期再建はお勧めできません。また、自家組織による二期再建はできる場合もありますが、傷の治りや見た目もよくないことがあります。手術の前に、担当医と十分相談することをお勧めします。」とガイドラインに記載があります。

  • 再手術、追加切除がありうること。

    乳房温存切除はガンを残していい手術ではありません。なにを当然なことをと思われるかもしれません。ただガンは目に見えない部分もあります。したがって手術は安全域として目に見える腫瘍(茶色の星)から1~2cmの距離をとって切除することで行います。

    これだけでは不安なので手術中には最低4つ、通常8つの方向から5mmくらいの組織をとってこれを凍らせて病理検査をします(黄色の四角)。そしてガン細胞がいないことを確認して手術を終了します。手術が終わると、とった標本はホルマリンで固定します。乳腺はたくさん脂肪を含んでいますので、なかなか凍りませんし、硬くなりません。2週間くらいかけて硬くした標本を今度は全部小さくスライスして調べます。そのとき赤の丸で囲んだ部分のようにガンが組織の中を這っている部分が標本のきった端まで届いていることがわかることがあるのです。このときは、この方向で追加切除が必要になります。 したがって2週間前後でもう一度、手術が必要になることがあります。

  • 残した乳腺から再びガンが発生することがあること

    乳房温存切除は患者さんの生命予後(治る治らない)には影響しませんが、再発するときは残った乳房から再発することが最も多く、そのときには再手術が必要です。しかし再発したガンを切除すれば命には問題ありません。

    温存治療はこうしたことが前提で行われてきた結果、乳房を全てとってしまう手術と成績が同じでした。温存切除を選ばれても、全摘を選ばれても、正しく選択していることを前提にあなたのガンが治る、治らないに、あるいはあなたの命には関係がないのです。

    当院では、上で紹介した通り、内視鏡手術も行なっています。全ての乳ガンの患者さんに適応することは難しいのですが、将来は適応が拡大することが期待されています。

ガンと微小転移

皆さんは、ガンの手術を受けたら、そして手術が“成功です”と言われたら、ガンは治っていると思いますか?  

皆さんは知っています。ガンの手術を受け、元気に家に帰ってこられた人が、何年かしてガンが“再発”することは決して珍しくないことを… 

でもそれはなぜでしょう、ガンは、もしそれが発見されたら、二つのガンを意識しなければなりません。

一つはマンモグラフィーや超音波検査で見つかった異常、つまり“眼に見える”ガン

そしてもうひとつは現在の検査では発見されない、あるいは発見できない“眼に見えない”ガンです。

上の写真は乳がんを映したMRIの画像です。黄色で示した乳ガンに対して、赤で示した血管がいく筋も入り込んでいることがわかります。反対の乳腺にはこうしたはっきりした血管は映っていません。つまりこれらの血管は乳がんを養うために存在しています。ガンの血管を刺激する物質を出して、こうした環境を作り出すことがわかっています。

ガンは昨日、今日にできたものではありません。少なくとも数か月、長ければ数年にわたってこうして大きくなってきたのです。ガンに流れ込み、流れ出る、こうした血管の中に、長い期間の間にガン細胞が流れ込むことがなかった、と考えることは果たして現実的でしょうか?

体は絶え間なく血液やリンパが流れる川のようなものです。もし流れる川に毒が流れ込んだら、それを完全に取り除くことは難しい。ガンの治療はそれによく似ています。手術はまずその毒ビンを取り除くことに似ています。しかしそこから流れ出たかもしれない毒はどうしたら消せるでしょうか。手術では間に合わなかったかもしれません。たしかに1日でも手術は早いほうがいいでしょう。けれども1日早めれば流れ出ないうちに切り取れる、そうしたものではないこともわかります。

検査で捕まらないガン、これも立派なガンの転移です。これを“微小転移”といいます。そしてガンは“致死性”です。眼に見えない微小転移も根絶できなければ、ガンは根治しないのです。

いまのところ、それは化学治療、つまり抗ガン剤やホルモン治療など、薬物治療しかないとされています。つまり毒ビンを取り除いた後、別の場所から解毒薬を、毒が流れた川に流すのです。

もともと対応が早く、ビンからガンが流れ出ていなかったか、あるいはその解毒薬で、全ての毒が消えれば、川は助かります。それが、ガンが治った、ということです。逆に再発、転移は、微小転移が眼に見えるようになった、検査で見えるようになったにすぎません。つまり毒が消えていなかった=ガンが治っていなかったのです。

ガンの治療は、眼に見えるガンの治療と、眼に見えない微小転移の治療、その二つをセットで考えないといけません。

化学治療は解毒薬を流すようなもの、と言いましたが、抗ガン剤は二つの点で解毒薬と違います。抗ガン剤は多かれ少なかれ、毒をもって毒を制する、性格を持っています。つまりそれ自身も健康を損ねるのです。

抗ガン剤は副作用を持っています。髪の毛が抜ける、食欲がなくなる、皮膚に湿疹が出る、などその内容は様々で、その程度もまた、薬に、そしてそれを投与される個人の資質に左右されます。そしてその解毒の作用が、毒の作用を上回って初めて薬となります。体は薬の効果を得るために、毒の効果を耐えないといけません。

もうひとつ、解毒剤と決定的に違うのは、使ってみないと完全に解毒できるかどうかは分からない、ということです。抗ガン剤はほぼ確実に効果があります。しかしガンの治療では完全に微小転移という毒が消えないと、いつか再発して命を脅かすのです。

そこで考え出されたのが、術前に化学治療をするという考え方です。手術でガンを取り除く前に、化学治療の効果を確認しておくのです。眼に見えるガンに抗ガン剤を使ってみて、効くことを確認するのです。こうしていま眼に見えている毒が解毒できるのを確認できた解毒薬を用いて、眼には見えない毒、つまり微小転移を根絶するべく、さらに徹底投与します。これを術前化学治療と言います。

このように、いまではガンを根絶するために様々な方法が考えだされています。当院には抗ガン剤の専門家(ガン薬物治療専門医、認定医、指導医などの資格者)が私以外にも多数おります。ガンの治療に悩まれている方は一度セカンドオピニオン外来を利用されて、相談してみてください。