新しい道を開く
2020.05.24
「都会の高層ビルを背景に、ペンギンたちがまるで空を飛んでいる不思議な光景」で話題を呼んだ水族館を知っていますか? そこは買い物で外出してきた女性客のオアシスとなり、こどもが行く水族館のイメージは払拭されて年間197万人の集客を誇っているようですね。
中村元さんは、水族館プロデューサーとして活躍されているようですが、飼育員を始めた当初、団体客に飼育員が解説するサービスで、アカウミガメとアオウミガメの違いを説明していても、誰も聞いてくれない。「『浦島太郎の亀はどれや』と毎回聞かれるが、みんな笑って答えも聞かず行ってしまう」という経験をされていました。
悔しくて調べてみると、
浦島太郎の話のように浜に上がって来るのは本州ではアカウミガメだけ。
性別は? 産卵のためだから雌だ。
じゃあ雄と雌の見分け方は?
お客さんに次々とクイズ形式で問いかけると、大喜びで乗ってきたので、「こっちのほうが使えるやんか!」と実感したそうです。
お客さんは自分と同じで、学術めいた生態や分類などには興味がない。「他の飼育員は、魚に詳しくない人の気持ちなんて分からない。自分が一番お客に近い」。知識の乏しさという弱点が、武器に変わった瞬間だったと振り返っておられます。
その後も、お客さんが何をどう見ているのか知るため、現場で実際に観察するようになり、一番熱心に見るのは珍しい魚がいる水槽ではなく「青の透明感や清涼感が感じられる水槽」であることがわかってきました。
場所も重要で、入り口近くは「しょぼい水槽」でもよく見られるのに、順路の最後にある目玉の水槽はあまり見られず、お客さんは入館料を払った直後は一生懸命眺めるけれども、だんだん疲れ、最後には時間がなくなって速足で帰っていくことが見えてきたのですね。
物事には捉え方一つで状況が好転することがある。生態を覚えられない飼育員がプロデューサーになり、子供が来ない水族館は女性を潤す大人のオアシスになった。
水族館プロデューサーなのに魚への興味も知識も無い。そんな中村元さんが、いくつもの水族館などを人気スポットに導けたのは、自身の短所を知り、それをバネに新たな道を見つけ出す。その気づきをくれたのは亀たちだったというお話です。 ―NIKKEI The STYLEより―
皆さんはこの方の語りから何を感じましたか?
今、何が起こっているのか状況判断するための観察、判断 計画 実施 評価
看護のプロセスと同じですね。そして、それを実施する時期や場所も示唆されています。
臨地実習では、患者さんの状況が刻々と変化していくけれど入院期間は短く、気持ちが焦るばかりでどうすればよいのか混乱することもしばしば体験されるのではないでしょうか?
飼育員としてウミガメの説明をしようとしたらお客さんは関心を持ってくれなかった。悔しくで調べていくうちに、自分自身がお客さんのニーズに関心を寄せていなかったことに気づいたのですよね。
もうひとつは、何も知らない自分はお客さんにいちばん近い存在として「弱点を武器に」変えたのですね。
お客さんが関心を持っているのは何なのか自分の目で観察し、感じ取ったことを実践していった。すると、新しい道が開けた。
皆さんも、本来の看護実践の目的、患者さんが求めている私たち看護師の役割を一人で突っ走らないで状況を観察し、患者さんや病院スタッフと共に患者さんの到達目標に向かってサイクルを回してみて下さいね。
もうしばらく臨地実習はかなわず、学内実習・演習が続きます。
皆さんの気持ちが痛いほどわかります。臨地実習に行きたかったですよね。
でも、この時期、学内実習・演習だからこそ深められる体験があります。
いま、3年生が実証しています。
2年生の皆さんも、無駄な経験はひとつとしてないことを信じて前に進みましょう。 Fight!