Japanese Red Cross Coeirty
(斜体は筆者注)
様々なタレントさんが、乳がんを罹患され、そのことを積極的にご自身のブログなどで情報発信されることはまれではありません。中でも衝撃的だったのは、とあるタレントさんがブログでご自身が乳癌を罹患されたことを発表するなかで、毎年乳癌検査を欠かさなかったのに全摘出するまでの乳癌になってしまった、と疑問を呈した時で、様々な媒体でも議論が起こりました。
毎年検診を受けていて、なぜそんな大きな癌に? それに関して米国Anne Marie McCarthy先生が今年重要な発表をしています。(McCarthy AM, et al: JAMA Oncol 4:998-1001, 2018.)
https://jamanetwork.com/journals/jamaoncology/article-abstract/2679560
本研究では米国の巨大なデータベースから(PROSPR)から、40歳以上の女性で2011年から14年にマンモグラフィー(MMG)検診を受け、異常なしとされた症例を集め(27万人という数!)、さらにその中から検査後1年以内に乳がん診断を受けた症例を拾い上げました。(以降 こうした症例を1年単位でみると、誤って陰性と診断された症例として『1年単位偽陰性症例』と呼ぶ。)
また乳がんと診断された際に、「遠隔転移が有る」「リンパ節転移が有る」「ホルモンレセプター陽性HER2陰性症例では2㎝以上」「トリプルネガティブ症例では1㎝以上」「ホルモンレセプター陰性HER2陽性症例では1㎝以上」の症例を予後不良としています。
MMGスクリーニング検診を受けた306,028名の症例中、陰性であったのは272,881名でした。
そのうち160名に1年以内に乳がんが見つかっており(1年単位偽陰性症例)、1年単位偽陰性症例中で90名が予後良好(1万名分の3.3名)、70名が予後不良でした。(1万人中2.6名)
1年単位偽陰性症例中、43.8%がこうした予後不良群に分類されます。逆にMMGスクリーニング陽性で乳がんが見つかった症例中では26.9%なので、有意差をもって予後不良である可能性が高いのです(P < .001)。
このことは、1年単位偽陰性症例の中には、たしかに検査で見落とされた場合もあるかもしれないが、非常に短い期間で大きくなる、増殖の速い症例が少なからずおられることを考慮すれば当たり前と言えます。
MMGスクリーニングで所見なしとされた女性において、高濃度乳腺(当HPの“高濃度乳腺”の項目を参照)とそうでないものを比較すれば、予後にかかわらず、1年以内に乳がんが見つかる可能性は高濃度乳腺で2倍近く高く、そこに年齢、家族歴は関係ありませんでした。
1年単位偽陰性症例において、40歳代の若年者は、70歳以上の高齢の方と比較して、予後不良である可能性が3.5倍も高く、乳腺の濃度や家族歴は予後不良とは関係しない。
乳腺濃度はMMGスクリーニングで所見ありとされた場合に、実際にがんがあるかどうかに関係しません。年齢が高齢で、家族に乳がんの方がいると所見ありになる可能性が高まりますが、予後不良因子とは関与しませんでした。
結論として、たしかに1年単位偽陰性症例の比率は少ないけれども、予後不良因子に関与していることが多く、その意味からは早期発見されるよう改善することが望ましいのです。
高濃度乳腺はこうした1年単位偽陰性症例の理由足りえますが、こうした1年単位偽陰性症例が高濃度だからといって予後不良であることとは関与しませんでした。むしろ若年者がこうした1年単位偽陰性症例の予後不良因子に関与するのです。
乳腺濃度は通常の検診に加えて、何らかの補足を必要とする理由となり得るとして注目されていますが、それに加えて年齢も1年単位偽陰性症例の中で予後不良な症例を見つけることには重要である、と結ばれています。
・『1年単位偽陰性症例』には予後不良な患者さんが少なからず含まれる。
・若年者(ここでは40歳代)ではもし『1年単位偽陰性症例』となれば予後不良であることが多いことから、自分が高濃度である、家族に乳がんの患者さんがおられる、にかかわらず、たとえば超音波、毎月の自己視触診など、年1度のマンモグラフィー検診に何らかの補助検診を加えたほうが良い可能性があります。(ただ学問として、だから何をどうすればいいかは証明されていません)。ちなみに先のタレントさんは春に自分で鏡の前で視診をし、乳腺の異常に気が付かれています。
先のタレントさんのような症例は1万人が検診を受ければ2.6名おられることになります。(けっして「タレントさんが予後不良」というのではなく、「タイプにかかわらず、2㎝以上で乳がんが見つかってしまう『1年単位偽陰性症例』に該当する人がそれだけ存在する」ということです。