Japanese Red Cross Coeirty
一般に総胆管結石症では,ASTやALTよりも,ALPとγGTの上昇が大きい.しかし,総胆管結石の患者の中にはALT値が著しく上昇し,肝疾患と誤って診断される場合もある.したがって,ALTが上昇した総胆管結石症の臨床病理学的特徴を調査した.
この前向きコホート研究には,ERCPによって総胆管結石と診断された882人の患者が含まれた.これらの患者のうち38例(4.3%)は胆管炎がなくアミノトランスフェラーゼ値400 IU/L以上を示し
(胆石性肝炎),116例(13.2%)はアミノトランスフェラーゼ値が正常であった(対照).
この両群を,臨床的特徴,検査結果,放射線画像,ERCP所見(総胆管径,総胆管結石の直径と数,および傍乳頭憩室など)に関して比較した.
胆石性肝炎の患者について肝生検を実施した.
胆石性肝炎の患者は対照群より若く,胆嚢結石を有する率が高かった.これは胆嚢結石が排石した確率が高いことを意味した.また,胆石性肝炎の患者ではより強い#1
短時間の#2 腹痛を認めた.ERCPでは,対照群より胆石性肝炎群の総胆管径が狭かった.
胆石性肝炎の患者の肝組織検査では,軽度の炎症以外に異常は認めなかった.
対照群と比較して,胆石性肝炎の患者は若年であり,より狭い総胆管を通って胆石が移動するため総胆管圧が急激に上昇し,より強く短時間の腹痛を生じた可能性が考えられた.これらの臨床的特徴は,肝疾患の鑑別診断だけでなく,閉塞性黄疸の肝障害の基礎的メカニズムを理解する上で役立つかもしれない.今回の研究で観察された特定の臨床病理学的特徴に基づいて,
「胆石性肝炎gallstone hepatitis」の新しい定義を提案する.
#1:スコア5以上に該当する中等度から重度の腹痛
#2:48時間未満での腹痛の消失
総胆管結石に胆管炎が合併するとアミノトランスフェラーゼ値は著しく上昇するが,胆管炎を伴わない症例はウイルス性肝炎,薬物性肝障害,虚血性肝障害と誤診されることがある.
1991年にIsogaiらは,強い腹痛,血清トランスアミナーゼ上昇(≥ 300 IU/L),および胆石からなる「胆石性肝炎」という用語を提唱した.
今回我々は,強い腹痛,血清アミノトランスフェラーゼ値の上昇(≥ 400 IU/L),画像診断による総胆管結石の確認,胆管炎がないこと,アミノトランスフェラーゼを上昇させる疾患やリスク要因が他にないこと,そして胆石除去後に肝障害が迅速に回復すること,以上により「胆石性肝炎」を再定義することを提案する.
今回の研究では胆石性肝炎は38人(4.3%),対照群は116人(13.2%)であった.胆石性肝炎の10人の患者は肝疾患と誤診され,ERCPなどの診断と治療手技の遅延につながった.
両群間の腹痛の部位に有意な差はなかったが,胆石性肝炎の患者では対照群より胆嚢結石の有病率が高かった.両群間でAST,ALT,総ビリルビン,ALP,γGT値に有意差が認められたが,白血球数,アミラーゼ,リパーゼ,およびCRP値は同等であった(表2).
胆石性肝炎の患者のうち5人で,胆嚢摘出術の際に肝生検が行われたが(平均,入院後11.2日目),軽度の炎症以外に異常は認めなかった.
閉塞性黄疸に関する以前の研究では,AST値,ALT値が400 IU/L以下が各々98%,93%であり,400 IU/Lを超えた患者は7%未満であった.今回の我々のdataでは,総胆管結石の患者の16.5%が400 IU/Lより高いアミノトランスフェラーゼ値を示し,4.3%が胆管炎の合併なくアミノトランスフェラーゼ高値を示した(胆石性肝炎).
Anciauxらは,胆管閉塞の患者100%で最初の3日以内に血清ALPとγGTが上昇する一方で,アミノトランスフェラーゼ値の上昇は88%の患者に見られ,平均AST 102,ALT 150 IU/Lと報告した.
ただし,こうした過去の研究では,アミノトランスフェラーゼ値に影響する胆管炎の合併が除外されていない.今回の我々の研究では,胆管炎を含むアミノトランスフェラーゼに影響する複数の要因を厳密に除外した.
胆管閉塞の患者で,血清アミノトランスフェラーゼが上昇する基礎にあるメカニズムは判っていない.動物モデルでは,総胆管の正常静水圧は10~15 cmH2O(7.4~11 mmHg)であり,括約筋以外の原因による閉塞で25~40 cmH2O(18~30 mmHg)に増加する.ヒトでは,胆管閉塞によって総胆管圧が増加することに加えて,胆管の逆行伝搬波の頻度が増加するために.胆管静水圧が急速に増加する.これらの変化はまた,肝細胞膜の透過性,アミノトランスフェラーゼ産生,胆汁酸の肝細胞毒性を増加させ,その結果,アミノトランスフェラーゼが上昇する.胆管が閉塞すると,肝細胞は炎症による損傷を受ける.胆管結紮ラットの研究では,クッパー細胞の貪食作用が増加するだけでなく,いくつかのサイトカインと血小板活性化因子の産生が増加することが示された.胆管結紮後にはさらに,活性化した好中球が増加して肝臓に集積し,肝損傷を悪化させる.
胆石の存在は,胆石の移動による総胆管圧の急激な上昇に寄与する要因であると考えられる.総胆管結石症では結石形成から症状発現まで徐々に進行し,結石による胆管拡張を含む器質的な変化も引き起こす.
他方,胆嚢から脱落した二次的な総胆管結石は,そうした変化を伴わずに遠位総胆管を閉塞するため,胆管内圧が急速に上昇する.胆管内圧の上昇による逆行性の圧上昇が,
胆管-リンパおよび胆管-静脈の逆流を来して肝実質の破壊を誘発する可能性がおそらくある.胆嚢は胆管内圧の急激な上昇の緩衝機構として機能するが,脱落した胆石と胆嚢管の浮腫は,胆嚢が圧力を緩衝する役割を妨げる可能性がある.
高齢者では胆管径が拡張する#3 ため,若年者と比較して,胆管閉塞時に胆管内圧が上昇せず,血清アミノトランスフェラーゼ値が低い
可能性がある.逆に,若い患者は,総胆管がより狭いため#3 胆管内圧の急激な上昇を示し,このためアミノトランスフェラーゼ値が劇的に上昇し,強い腹痛をもたらす可能性がある.
総胆管結石の患者がアミノトランスフェラーゼ値の著明な上昇を呈する場合,臨床現場ではしばしば肝疾患として誤診されて,診断と治療の遅れにつながる可能性がある.腹痛は肝疾患の主要な症状ではなく, また痛みも多くは強くないことを考えると,強い腹痛は鑑別診断の手掛かりとして重要である.また,胆管閉塞に起因する胆石性膵炎(7.8%)よりも胆石性肝炎(4.3%)の発生率が低い ことは,胆管内圧の上昇に対する胆管と膵管の解剖学的相違と緩衝能の相違が関係する可能性が示唆された
#3:総胆管径が10mm以下か超かで区別する.
この報告はトランスアミナーゼ値が平均1,000IU/Lを超えた18人の患者を研究している(表).正常胆嚢の患者ではまれであった.
1,000IU/Lを超えるトランスアミナーゼの上昇を見た場合,ほとんどの医師はウイルス性肝炎,自己免疫性肝炎,虚血,薬物毒性による肝細胞壊死を考える. しかし,動物実験モデルにおいて総胆管を結紮すると,トランスアミナーゼ値が数千まで上昇することが示されている.
胆嚢は胆管閉塞による管内圧の急激な上昇を防ぐ安全貯留槽として働くと考えられている.胆嚢摘出後の研究において,モルヒネ投与や胆道閉塞があると,対照と比較して肝酵素の顕著な上昇が示されている.
Mossberg and Rossは,胆管閉塞によってトランスアミナーゼが上昇の3つのメカニズムを提案している.
さらに閉塞した胆管枝が,まだ判っていない機序でトランスアミナーゼの活性化を起こす可能性もある.
胆管分岐の内圧の増加やそれによる胆汁酸の停滞は,肝細胞の透過性亢進と,おそらく壊死につながると考えられる.そのため血清トランスアミナーゼの上昇を引き起こす.別の説明として,胆汁酸が誘導するアポトーシスが貪食細胞の除去能力を超えて大規模な場合,二次的に肝細胞壊死をもたらすとも考えられる.
最も妥当な仮説は,胆管内圧が高くなるほど胆汁分泌障害や胆汁貯留が強くなり,肝細胞のアポトーシス,壊死,肝酵素の漏出がより大きくなることである.