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ストレス・ベイキングが流行

先日、娘がホットケーキミックスと生クリームを購入しようと近所のストアに出かけると品切れでした。みんな、家でケーキ作りしているのかなと家族で話していました。

 

そんな時、このような記事が出ていたので紹介します。

 

「クックパッドでレシピを検索し、一番人気のパンが簡単そう、と選びました。こねればこねるほどおいしくなるとあったので、かなり頑張って30分ぐらいこね、直径5~10センチの丸い塩パン15個くらい作りました。とてもおいしくできて、家族も喜んでくれたのでうれしかった。早く学校が始まってほしいけど、5月6日までは家にいないといけないので、また気晴らしにパンを作りたい」。

 

「外出できないし、友だちにも会えない。課題の学習のほか、家でゲームばかりしているのにも飽きたので、時間がかかるものを作って充実した時間を過ごしたかった。」というような動機で、パンを作る人は多そうだ。

クックパッド食の検索サービス「たべみる」によれば、「手作りパン」のワードを検索した人は2月半ばから増え始め、3月9日の週には、前年同時期と比べて約2倍にまで伸び、その後も高い割合で検索されている。

 

パンやお菓子といったオーブン料理をせっせと作る人は、アメリカでも増えている。ニューヨーク・タイムズ3月30日配信記事は、コロナウイルスの影響で生まれた「ストレス・ベイキング」の増加ぶりを伝える。

 

ワシントンD.C.在住でナショナル・パブリック・ラジオのキャスター、マリー・ルイーズ・ケリー氏は、砕いたキャラメル、熟しきったバナナ入りの食パンを作った。そして「コロナウイルス・ベイキング」のハッシュタグをつけ、「私のほかにも、9時40分なんて夜の時間に、お酒を飲みながら精力的にバナナ・ブレッドを作る人はいませんか?」とツイッターに投稿した。するとあっという間に、パンやお菓子の写真のリツイートが何千も寄せられたという。

 

ほかにも、同紙は焼き菓子・パンコンテストのイギリスの国民的人気番組「ブリティッシュ・ベイク・オフ」に出てくる複雑なレシピのクロワッサンを作る、ジョージタウン大学特別研究員の例が紹介されている。

 

アメリカのSNSでは、「孤独な食パン」「隔離クッキー」などの写真であふれている。3月半ばから、小麦粉やイーストなどのパンの材料は、インターネット通販のベストセラーになったり、売り切れているのだと同紙は伝える。

 

また、3月27日配信のワシントンポストの記事は、ストレス・ベイキングと買いだめのため、卵不足になった流通と産地の悲鳴を報じる。アメリカ最大の自然養鶏場のヴァイタル農場では、配信の前週に普段の1.5倍の出荷量となったことを報じた。

 

■突然のブームに4つの理由

 

いったいなぜ、世界のあちこちでパンやお菓子を焼くことが突然ブームになったのだろうか。理由は、4つ考えられる。

 

1つは、巣ごもり時間を持て余す料理好きにとって、ちょうどいいヒマつぶしになることだ。毎日家にこもって過ごすのは退屈で、何かして体を動かしたくなる人は多いだろう。そんな人に、パン作りはうってつけの作業だ。材料をこねるのは時間がかかるし、力が必要な場合もある

 

 しかも、パンは30分から1時間程度の発酵時間が2回必要という、作るのに時間がかかる発酵食品である。普段なら簡単なものしか作らない、食事として必要不可欠なものしか作らない人でも、巣ごもり生活の今は、時間をつぶすためにもやってみようと思えるのではないだろうか。そして、腕に覚えがある人なら、この機会に面倒くさいレシピに挑戦すれば、達成感がより大きくなる。

 

2つ目は、こねる作業に癒されることだ。子どもが粘土遊びを喜ぶように、園芸好きな人が土いじりで癒されるように、粉を触りこねていく作業は心地よく、雑念を忘れて没頭することができる。つまり、コロナに関わる不安やいらだちから離れ、落ち着く時間を持てるのだ。パンは発酵食品なので、生きているものを触る喜びを感じる人もいるかもしれない。

 

 3つ目は、うまくできればおいしく、家族も喜ばせることができること。パンは、日米どちらの国民にとってなじみの食品である。

 

4つ目は、自分で作って完成させる喜びだ。コロナの脅威は、終わりの時期が見えず、次第に長期化している。政府の動きはあまりにも遅いし、仕事を失った人、減った人もたくさんいる。

 

どうにもならない状況にイライラする人は、おそらく多い。しかし、パン作りには必ず作業の終わりがある。時間がかかるといっても、何日もかかるわけではなく、決着が早い。必ず完成するというものを作ることが、イライラしがちな心に落ち着きをもたらすのではないだろうか。

 

 

クックパッドの「たべみる」では、パンのほか、ギョウザのレシピも人気が上がっている。3月30日の週に急速に検索が増え、2019年同時期の1.6倍弱にまで伸びたのだ。

 

ギョウザも、手間がかかる料理である。しかし、一つひとつたねを包んでいく単純作業には、無心になれる魅力もある。検索してレシピを調べるということは、その人は普段ギョウザをあまり食べないか、外食や中食、冷凍食品で食べていると考えられる。

 

■巣ごもりレシピに見る「希望」

 

 普段作らないパンに挑戦する人、ギョウザに挑戦する人。巣ごもりレシピの人気は、もしかするとコロナウイルスの脅威が去ったのちに、新しい料理文化の局面をもたらすかもしれない。

 

 それは、普段は時短料理で済ませている人、惣菜や加工食品、外食で済ませている人が、ヒマつぶしに挑戦した料理で、作る喜びに目覚める、あるいは思い出すことだ。パンを作ってみた人が、他のパンやお菓子を作るかもしれない。ギョウザを作った人が、次は他の料理を試すかもしれない。

 

 今まで時間に追われ時短ばかりを求めていた人が、急に時間ができて料理の楽しさを知る、あるいは面倒だと思っていた作業が案外大変でないことに気がつく。作ってもらった家族が喜ぶ顔を見る、一緒に食べる楽しさを体験することで、絆を深める人もいるだろう。そうしてゆったりとした気分を思い出し、今までの生活を見直そうと考え始めるかもしれない。

 

 中には、手作りの喜びから手ごたえを得て、新たな趣味やビジネスへと足を踏み出す人もいるのではないだろうか。

 

 コロナウイルスの脅威を体験したことは、これからの世界を変える。もちろん経済へのダメージは大きく、人間関係を引き裂いてしまうなどのマイナス面がたくさんある。生活が厳しくなり命の危険にさらされる人も多い。この感染症による被害は大きすぎる。

 

 しかし、テレワークが珍しくない生活になり、プライベートな時間や空間を大切にできる人が増える可能性があるといったポジティブな面もある。そして、手作りパンなどの新しい料理を覚え、新たな強さを見つける人もいるだろう。料理は人が生きるベースである。それを自分の手に取り戻す人が増えていることは、ささやかだが1つの希望である。

 

                     阿古 真理 :作家・生活史研究家 東洋経済ONLINEより