乳腺外科

Triple negative乳がんは1種類ではない Vol. 5

さて最後のLARについてです。

LARタイプ乳がん

このタイプのTN乳がんは、アンドロゲンというホルモンへのレセプターを持っています。女性の性ホルモンはエストロゲンであり、ER=エストロゲンレセプターは乳がん細胞の重要な二つの標的の一つであることはVol.1で述べました。男性の性ホルモンはアンドロゲンであり、AR=アンドロゲンレセプターを持つこのタイプのTN乳がんはしたがって限りなくTN乳がんよりもルミナールタイプの乳がんに近いのです。

そしてERを持つ乳がんがERをブロックすることでおとなしくなるように、ARをもつこのTN乳がんもARをブロックすることでおとなしくなります。そして現代医療ではこのARをブロックする薬剤はすでに開発されていて標的治療が確立しています。ただ日本では保険適応ではありません。

ASCO2015 Antoinette TanによればTN乳がんのうち、10-15%がAR陽性とされています。われわれが2011年から2016年で経験したTN乳がん146例中、実際このARが陽性だったものは何例あったか調べてみると5例(3.4%)でした。ただしわれわれはTN乳がん全例でARを調査しているのはありません。“アポクリン化生”を認める特殊な乳がんを疑ったときに調べるようにしています。
アポクリン化生というのは、汗腺の1種であるアポクリン腺の細胞のように乳がんが変化していることを言い、乳腺症という良性の乳腺の変化でもよく見られることが知られています。90%以上がアポクリン化生を示している乳がんをアポクリンがんと呼び、われわれの5例中では2例がそのアポクリンがんと診断されました。逆にアポクリンがんは同じ期間に12例経験しており、いずれもTN乳がんでした。
この12例を見てみるとステージIが5例 IIが4例 IIIが3例でした。
観察期間で0.3から3.9年(中央値 1.2年)で再発は1例もありません。進行がん症例には全例補助化学治療を施行しています。内3例は術前化学治療を施行しているが、pCR(病理学的完全寛解)が得られた症例は1例もなく、Grade 1a(ほぼ化学治療に反応なし)にとどまりました。
このようにAR陽性乳がんは、他のTN乳がんと異なり、ホルモンに感受性があり、抗がん剤はほとんど効果が期待できません。基本的に予後はよいとされるが、放置すればリンパ節転移を来すこともまれではなく、進行がんでは効きにくいからと言って抗がん剤を省略することはできません。
進行がんでは抗がん剤をきちんとするのだから、ER陽性乳がんのように、術後に抗がん剤をし、さらにホルモン剤を使ってアンドロゲンを抑制するべきではないのか?
これに関してはもともとの数が少ないタイプのがんなので、臨床試験が組まれておらず、結果も出ていません。ただホルモン剤は使えなくとも再発は経験していないことはすでに述べたとおりです。

Triple negative乳がんは1種類ではない Vol. 6

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