乳腺外科

Triple negative乳がんは1種類ではない Vol. 3

IMとされた分類では、別名髄様がん(Medullary breast cancer)と記載されています。もともとTN乳がんの中では予後が良いことが知られていました。医師はTN乳がんと言われるとぎょっとしますが、髄様がんだとホッとします。ただ全乳がんでは1-2%しかありません。
この種類の腫瘍の近傍では、顕微鏡で見ると腫瘍浸潤リンパ球(TIL)と呼ばれるがんをやっつけようと集まってくるリンパ球がたくさん観察されます。しかし腫瘍ががんとして、しっかり成立しているのだから、このがん細胞はこうして集まってきているリンパ球を無力化する力を持っていることもわかります。
最近、この働きをつかさどるPD-1、PD-L1と呼ばれるシステムが見つかりました。わかりやすくすると下の図のようになります。がん細胞をやっつけようと集まってきたリンパ球に、がん細胞はPD-L1を使って賄賂を渡し、お目こぼしを図る。リンパ球がPD-1でそれを受け取ってしまうと、集まってきても何もしなくなり、攻撃をやめてしまうのです。この賄賂のやり取りの現場は免疫チェックポイントと呼ばれています。

PD-1、PD-L1と呼ばれるシステム

これに対してPD-1抗体あるいはPD-L1抗体と呼ばれる賄賂の受け渡しをブロックする薬が近年開発されました。髄様がんであるという標的と、PD-1抗体という治療法が揃い、ここでも標的治療が確立したことになります。ガン細胞がPD-L1を出しているか、調べることも可能です。
たとえば週刊誌や新聞でも有名になった“オプシーボ(一般名:ニボルマブ)”はこの免疫チェックポイント阻害剤(PD-1阻害剤)です。ここまで読んできてくださった方には、オプシーボがいくら画期的なお薬であっても乳がん全てに効くわけではないことを理解していただけるでしょう。
まず乳がん細胞がPD-L1を、腫瘍浸潤リンパ球がPD-1を発現していないようであれば効果は期待できません。残念ながら乳がん治療、さらにTN乳がん全体で見たとき、免疫チェックポイント阻害剤の効果は限定的なようです。たしかにこのIM群では効果は期待できますが、もともとIM群は予後が良く、がんも限局性で、手術をすれば切除できてしまうことが多いのです。しこりに気づいていながら長期間放置し、信じられないような進行がんになってから来られたようなIMがんの症例でもない限り、いままでの治療で十分治療できます。
免疫チェックポイント阻害剤がTN乳がんの、それもIMがんにしか効果が期待できないのであれば、もともと出番は少ないはずです。非常に高価な薬なので「ワラにもすがるつもりで」などと自費で購入して使用するのは、医師として当然お勧めしません。国民みんなで病気の人を助ける仕組みを持つ日本で、効果が期待できない薬を試しに使ってみる、という行為はその善意のシステムそのものを壊しかねないのです。

IMタイプ乳がん

(Presented By Antoinette Tan at 2015 ASCO Annual Meeting)

Triple negative乳がんは1種類ではない Vol. 4