乳腺外科

Triple negative乳がんは1種類ではない Vol.2

●Basal-Like-2

Basal-Like-2について説明します。TN乳がんであっても、Basal-Like-1はもともと遺伝子修復機能が劣るために抗がん剤がほかのタイプと比較してよく効きます。増殖が速いわりに、抗がん剤に抵抗性を示す、治療に難渋するTN乳がんの中でもまさにTN乳がんらしいタイプはBasal-Like-2だと思います。

Basal-Like-2タイプ乳がん

(Presented By Antoinette Tan at 2015 ASCO Annual Meeting)

Basal-Like-2の下に書いてあるGrowth factor signalingとは細胞分裂を命じて成長を促す信号系列の意味で、そこに異常があることを示しています。
下に論文中に示された図を引用して示します[2]

細胞分裂を命じて成長を促す信号

ここでは少し改変して矢印を足して記載しています。
一番上にGrowth factor receptor(成長因子レセプター)の記載があり、細胞膜を通して下にPI3K、Akt、mTORとなっています。Growth factor receptor になんらかのGrowth factor (成長因子)が届くと、そこから信号が降り始めます。最終的には細胞分裂をしなさいという命令となり、増殖が始まります。Basal –Like-2がん細胞ではこのシグナル伝達が勝手に動いてどんどん細胞が増えていることがわかっている。だからその一番下のmTOR(C1)でブロックして分裂のシグナルを止めてしまおうという考え方で四角が描かれている。
2017年現在、PI3K、Akt、そしてmTORとそのすべてで経路をブロックできる薬剤が開発されている。現在このBasal-Like-2 TN乳がんに対して、Akt阻害剤が効果を示すかどうか、LOTUS試験、そしてFAIRLANE試験で試されている。2015年に開始の発表がなされたので、もう少しすれば結果の発表があるでしょう。ただBasal-Like-2は有望な標的があっても、その標的が本当に正しいのか、検査をする方法が欠けています。標的療法は、標的とそれを狙う薬剤が揃っていることが必須ですが、隣の標的を狙っていたら意味がありません。その標的がそのがんにとって致命的な弱点でなければならないが、それを検査で確認できて初めて治療に結び付きます。LOTUS、FAIRLANEは先の図で矢印の下に隠れている“PTEN”をその検査対象として有望視しています。PTENはこの経路が走らないようにするストッパーですが、これが壊れていることがBasal-Like-2の問題なのでは、と考えているのです。つまりPTENが壊れていれば、Basal-Like-2であるとして、Aktを標的に増殖経路をブロックして、がんをおとなしくさせようとしています。これが証明されればBasal-Like-2における標的治療が確立します。

なんらかの信号を受け取り、細胞の中に増殖の命令を降ろす役割をしているGrowth factor receptor(=GFR)について少し解説を加えます。
実は乳がんで大切な二つの標的のうち、HER2はこのGFRの一つです。

ここではGFRについて一般の方でもわかりやすく説明します。
皆さんは牛乳を飲まれるでしょう。牛乳は、牛がその乳腺で作っている。たくさん餌を食べる牛は、たくさん牛乳を作る。不思議でも何でもないことですが、生物学的にはとても凄いことで、牛の乳腺はどうやって本体がたくさん栄養を取っていることを感知するのでしょうか?
実はインシュリンが大きな役割を果たしていることがわかってきています。
人間でも栄養をとって血糖値が上がるとインシュリンが出て血糖値を下げようとする。このことは皆さんでもご存じと思いますが、このインシュリンが血糖値を下げる働きをするだけではなく、乳腺を刺激します。栄養が満ちて血糖値が上がれば、ミルクを作ってそれを分け与え、栄養がなければ、ミルクは出なくなります。
それでは、この経路で増殖している乳がんは絶食すればおとなしくなるのか?
がん細胞ではこうしたシグナルの伝達経路に異常が生じて、インシュリンが出てなくても勝手にシグナルが降りていくのです。課長が「部長が命令している」とうそをついて社員を働かせているようなものです。こうした場合、いくら部長を叱っても命令は止まりません。
そこでできるだけ下流のmTORのところで止めようという考えになります。
Basal-Like-2 TN乳がんに有効な可能性のあるmTOR阻害剤はすでに開発されて発売されていますが、残念ながら日本ではTN乳がんに対してこの薬剤の保険適応がありません。まだ臨床におけるデータが存在しないからです。ただ細胞レベルの基礎研究ではすでに有効性が示されています[3]。この論文では、Basal-Like TN乳がん細胞にはmTOR阻害剤が有効である可能性があり、そのBiomarkerはPTENではなく、GFRを持つこと、さらにCK5/6陽性であることと示されています。GFR、CK5/6のいずれも現在検査可能で、さらにmTOR阻害剤も手に入ります。臨床試験の結果が出て、Basal-Like-2 TN乳がんにmTOR阻害剤が使える日が来れば、さらに研究が進むでしょう。

Triple negative乳がんは1種類ではない Vol.3

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