乳腺外科

年間乳癌手術症例数(2016年12月まで)

われわれの手術症例数の年次推移を提示します。

2016年までの乳腺手術数

次に術式の選択の推移を示します。

全国的なデータからは、乳がん手術における乳房の温存率は40%前後の報告が多いと思われます。それと比較すると、当院では温存率が非常に高いことも特徴です。ただ年を追うごとに温存率が低下しています。それはもちろん温存する努力を怠ったからではありません。
近年、乳房切除後に行われるシリコンバックを用いた再建術が保険適応となりました(2013年)。サイズの大きな腫瘍に対し、変形を覚悟して大きく切除してわずかな乳腺を残し、温存するよりも、思い切って全摘して人工物で再建するほうがむしろ整容性が保たれます。また遺伝に関する研究から、残した乳房に将来再び乳ガンが発生するリスクを考慮する必要のある患者さんがおられることもわかってきました。こうした方ではたとえ若年者であっても、また早期発見であっても、むしろ全摘を選択することを勧めなければならない場合もあるのです。
こうした患者さんにとって、手術によって失われた乳腺を、保険を使って再建できるのであれば、精神的な負担も大きく軽減されます。また当院では、乳ガン手術と同時にシリコンバックを用いて再建を完了させる、1次(乳ガン手術と同時に)1期(1回で)乳房再建(Direct-to-Implantと呼ばれます)に積極的に取り組み、これを第一選択で行っています。2期再建を第一選択とする施設も多いのですが、Direct-to-Implant再建が安全に、かつ高い整容性で実現すれば、理論的には最も患者さんの負担が軽いからです。

シリコンバックによる乳房再建が保険適応となってから飛躍的にこの術式の数が増えていることがわかります。
ただ、全摘が必要な症例は最近になって増えたのではありません。乳ガンに遺伝性の傾向があることはずいぶん以前からわかっていましたし、マンモグラフィーをはじめとする検診が盛んになるまではむしろ全摘が必要となる進行ガンの患者さんが多かったのです。 次のグラフを見てください。

これは当院で全摘が必要であった症例のうち、どれくらいの割合の方が再建術を受けているか、のグラフです。全摘が必要となる患者さんの割合は大きく変化するものではありません。むしろ過去には検診が今ほど盛んではなかったため、全摘が必要となる患者さんは多かったのです。保険の問題があっても、様々な方法を用いて、たとえば自己組織(背中やおなかの脂肪)で再建することは可能であり、われわれは保険を含めた社会情勢に関係なく、継続して再建に取り組んできました。

ただ全摘となる患者さんすべてが再建可能かと言えばそうではありません。ましてDirect-to-Implantで再建できるかは、さらに厳しい条件が加わります。
理由として一つ例を挙げます。乳ガンが乳頭にまで及んでいれば、乳頭乳輪を残せません。乳頭乳輪は乳腺の皮膚の中で占める面積が大きく、これを切除してしまうと、皮膚が足らなくなります。つまり切除した乳腺と同じだけの人工物を入れようと思っても、それを覆う皮膚が足らなくなるのです。こうした場合には人工物を用いて1回で再建を完了することは難しくなります。
主治医と相談し、様々な選択肢の中から、全摘、温存、そして再建を含めて、それぞれの患者さんに応じた最善の方法を探していくことが大切です。

*医療従事者の方へ

2017年、私たちは“外科医による1次1期乳房再建 Direct-to-Implantの手法”と題して、手術アトラスを現代図書から出版しました。

乳房再建の具体的な手法、さらに術前術後管理に関して詳細に解説したものです。よろしければご参照ください。