乳腺外科

治療の流れ

ここからは治療の流れを説明します。
まずガンの診断はついているとしてどのようなガンか?も検討されます。
抗がん剤が効くか、病理型はなにか、など“ガンの精査”をします。これには2週間かかります。
そこで初めて治療開始となるのですが、乳癌の治療はおおきく4つに分かれます。

  1. 手術
  2. 放射線治療
  3. 抗がん剤(化学治療)
  4. ホルモン剤です。

この4つがさまざまに組み合わされて治療を形成すると思ってください。
下に代表的な流れを示します。

ホルモン剤は、必要な方は5年間、飲み薬で飲んでいただきます。
この開始時期は患者さんのよってそれぞれですが、化学治療の時期を外して開始になります。

検査について

まず入院で行われる検査はほとんどありません。すべて予約に基づいて外来で行われます。
1・全身麻酔を行うための基本的な検査(採血・心電図・呼吸機能・胸部X線写真など)
原則として半日ほどですべて終わります。このとき、たとえば糖尿病がある方ではその検査、心臓に病気を持たれている方は循環器科の受診、など、もともと持たれている病気があれば手術が影響を受けるため、特別な検査や診察が必要になることがあります。また特殊な例として、抗がん剤が必要になる方では原則として歯科の受診をしていただきます。

2・ガンの広がりの検査 造影(お薬を注射して行う)MRI検査 
2時間程度の検査です。MRI検査でガンの大きさや広がりを正確に把握します。現在、乳房を温存できる方の割合は全国平均で6割、当院では8割を超えています。乳房を残す際にはガンが広がっている範囲をより正確に把握し、取り残しのないように術前に切除計画を精密に立てておく必要があります。また手術の前に抗がん剤を施行し、小さくして手術を行う場合があります。こうした場合には抗がん剤の効果を正確に把握するために、MRIを用いて投与前後で大きさを測定し、比較します。

3・転移の有無の検索
骨・肺・肝臓・リンパ節など、乳ガンは乳腺から流れ出て転移を来すことがあります。さまざまな検査方法がありますが、我々はPET-CTという検査方法を使ってこれらを一度に検査しています。PET-CTは、脳転移、5㎜以下のガン、また増殖の遅いおとなしいガンはわからない弱点があります。

この検査は現在われわれの施設ではできず、紹介をして他院で受けていただいています。

ここまでが外来の検査になります。

治療前の面談

検査が終われば主治医との面談を行います。
面談では検査の結果を受けて、今後の治療方針を説明します。
その中には手術の内容と日時、所要時間、予測出血量(輸血の可能性)、入院期間の説明が含まれます。面談は原則として入院前1週間以内で行います。予約制で30分間を上限として行い、必要に応じて延長します。もちろん日を改めて再面談も可能ですし、この段階で申し出ていただければセカンドオピニオンへの紹介をいたします。

この面談を経て、入院日時、手術日時が決定します。
手術前に気を付けていただくことは、特別なものはありません。体調に気を付けて、風邪をひかないようにしてください。外出後は手洗いと、うがいを励行してください。 またもし喫煙されている方であれば禁煙をお願いいたします。ニコチンは数週間にわたり血流を阻害するため、傷の治りを著しく阻害します。感染、縫合不全、脂肪壊死などの合併症の頻度を有意に増やすことがわかっています。

入院は手術前日です。
手術日はご家族のうちどなたか一人は来ていただく必要があります。
術後の入院期間は3から5日間です。原則として温存切除の方は3日間、温存してもわきの下のリンパ節を郭清した方、全摘した方、再建手術を行った方では5日間になります。

退院後 1週間後には傷を見せていただきに外来受診してください。
退院してすぐに仕事に復帰されることは勧められません。特に上肢に力を入れることが必要な仕事は原則禁止です。ただ、日常の動作、食事をとったり、トイレに行かれたりはできますので、簡単な事務仕事は可能です。通常術後2週間は自宅安静を勧めます。

退院後 2週間前後で切除標本の病理結果が出ます。このときもう一度面談があります。
このときにたとえば抗がん剤をするかどうか、放射線治療をどうするか、が最終的に決まります。 したがってこれらが必要な患者さんでは、治療の日程がこの段階まで決まらないことになります。

どこで仕事を休めばいいのか?

みなさんがもっとも気にされていることは仕事をどうすればいいのか、かもしれません。
ここでは術前検査をし、手術を受け、抗がん剤をし、放射線治療も受け、ホルモン剤も飲むことになった…いわばすべての治療を受けることになったと仮定してどこで仕事を休めばいいか、考えてみましょう。

手術前後の1-2週間の流れ

化学治療をおこなう場合の、導入の2日間が、どうしても休職が必要な期間になります。仕事の内容にもよりますが、それ以外は原則としてすべて外来通院で施行可能です。

必ず行うこととなる選択

乳ガンの治療に限らず、ガンの治療は過去に行われた臨床研究に基づき、十分な審査を経て作られたガイドラインと呼ばれる道標に基づいて行われます。このガイドラインは日本乳ガン学会のホームページに、患者さん用にわかりやすく書き直されて記載されており、だれでも参考にすることができます。

▼日本乳癌学会ホームページ
http://www.jbcs.gr.jp/
▼患者さんのための乳がん診療ガイドライン
http://www.jbcs.gr.jp/people/people_gl.html

ガイドラインは現在の段階で、最善と考えられる治療が、“標準治療”として示されています。インターネットができない方でも大きな本屋さんで取寄せることができます。ぜひ読まれておくことをお勧めします。
乳ガン専門医は、乳ガン学会が試験を行い、このガイドラインにのっとった治療ができる医師として認定しているものです。したがって日本全国どこに住まわれている方であっても、専門の医師がいればガイドラインに示された同等の治療を受けることができます。
ガイドラインに従えば、本来選択肢はないはずで、最善の道は一つです。しかしそれでも患者さんが選ばなければならない別れ道が残ります。

  1. 温存しますか? 全摘しますか?
  2. 全摘をするとして、再建をしますか?

まず温存できない方がおられます。以下のいずれかに該当する場合は、乳房温存療法が適応にならず、乳房切除術が行われます。

  1. 2つ以上のがんのしこりが、同じ側の乳房の離れた場所にある場合
  2. 乳がんが広範囲にわたって広がっている場合
    (マンモグラフィで、乳房内の広範囲に微細石灰化が認められる場合など)
  3. 以下の理由で、温存乳房への放射線療法が行えない場合
    A) 温存乳房への放射線療法を行う体位がとれない
    B) 妊娠中である
    C) 過去に手術した側の乳房や胸郭へ放射線療法を行ったことがある
    D) 強皮症や全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病を合併している
  4. しこりの大きさと乳房の大きさのバランスから、美容的な仕上がりがよくないことが予想される場合
  5. 患者さんが乳房温存療法を希望しない場合

(5)を除けばほかの条件はご理解可能と思います。
しかし(5)のように温存できるのに全摘を希望される方はおられるのです。

たとえばお母さんや、祖母など近い親戚にたくさんの乳ガン患者さんがおられる、卵巣ガンの方がおられる、遺伝子検査を受けて乳ガンの遺伝子の異常を指摘されている、こうした方では温存できる乳ガンが見つかっても、全摘を考慮することがあります。遺伝子検査は保険が適応されず、検査は義務ではありません。遺伝子を直接検査しない限りその他はあいまいな根拠です。しかし再建を前提に全摘を希望される方も多いのです。ちなみに当院では再建手術を保険で受けることができます。

再建をするか、しないかで命に影響はないことはガイドラインにも
「乳房を再建することで再発が増えたり、再発の診断に影響したりすることはありません。」
ときちんと明記されています。
つまり温存可能な方は、そのとおり温存するか、全摘をするか、を選択する必要があり、そしてその後、再建するかどうか、を選択する必要があります。また温存できない方も、再建するかどうか、を選択する必要があります。

治療成績に影響しない以上は、患者さんの考えで選ぶことができるということです。専門医であっても、再建を希望される方に再建するな、と推薦する根拠はありませんし、全摘を希望される方に温存をすすめることはできません。手術までの短い期間にガイドラインを参考に学び、考え、よく比較検討して自分なりの意見を持っておく必要があります。