内科

吐き気,嘔吐,混乱,低Na血症の27歳女性-Case 9-2017

症例提示

Meaghan E. Colling医師(内科学):27歳の女性が吐き気,嘔吐,混乱,および低Na血症のために,当院に入院した.
入院の1週間前までは普段通りの健康状態であったが,その後から吐き気と非血性の嘔吐が出現した.数時間後に症状はおさまった.患者は病院を受診しなかった. 2日前,夕方に魚介類を食べた後,患者は吐き気と,何回か非血性,非胆汁性の嘔吐をした.前日,食後に再び嘔吐したが,水は沢山飲むことができた.その日の午前中,患者は友人と普段通りに付き合い,長距離を歩いて観光した.午後の早い時間,患者が少し混乱した状態にあることに,周囲は気が付いた.午後の遅い時刻になると,患者は友人が起こしても眠りから醒めにくく,指示に従うことも歩くこともできなかった.友人2人が患者を車まで運び,ある病院の救急部に連れて行って,診察を受けさせた.
身体所見は,体温36.1℃,血圧94/64 mmHg,脈拍100/分,呼吸数16/分,SPO2 100%(室内気)であった.患者は無気力で,質問や指示に応答しなかった.患者の発言には矛盾があり,時々泣いた.瞳孔は直径8mmで,対光反射はあった.患者は無意識に腕と脚を動かした.他の身体検査では異常は見られなかった.血圧を再び測ると73/54 mmHgであった.静脈ルートが確保され,検査結果が判明する前に,生理食塩水700 mlが静脈内投与された.
血清Na 104 mmol/L(基準範囲135〜145),K 5.1 mmol/L(参照範囲3.5〜5.0),Cl 74 mmol/L(基準範囲98〜107),HCO3- 19 mmol/L(参照範囲24〜32),グルコース114 mg /dL(参照範囲70〜110 mg/dL),アニオンギャップ11 mmol/L(基準範囲3〜15).AST 37 U/L(参照範囲10〜32),ALT 37 U/L(参照範囲,7〜35).血清総タンパク質,アルブミン,総ビリルビン,リパーゼ,腎機能検査の結果は正常であった.尿中hCGと尿薬物スクリーニング検査は陰性であった.サリチル酸の血中濃度は0.2 mg/dL(2.8〜20.0 mg/dL),アセトアミノフェンの血中濃度は0 μg/ mLであった.その病院は集中治療ができなかったので,患者はヘリコプターで当院まで移送された.飛行中に患者は興奮して,安静を保てなかった.ケタミン,通常の生理食塩水,および高張食塩水が投与された.
当院の救急部に到着した時,診察の質問に患者は答えることができず,病歴は家族から聴取された.患者はそれまでは健康で,エトノゲストレル(経口避妊薬)を服用していた.患者は大学院生で,米国南部に居住し,友達と一緒にニューイングランドを訪れていた.患者はたまにアルコールを飲み,喫煙歴はなく,OTC薬は服用していなかった.患者の母親は乳がんを患っていたが,自己免疫疾患の家族歴はなかった.
診察では,温度36.7℃,血圧102/57 mmHg,脈拍92/分,呼吸数12/分,SPO2 100%(室内気)であった.患者は嗜眠状態で,命令に反応しなかったが,疼痛刺激には反応して目を開き,手を引っ込めた.瞳孔は円形で左右差なく,光に反応性があった.粘膜は湿潤で,皮膚のツルゴールは正常であった.心音は1音,2音は正常で,雑音はなかった.呼吸音は両肺とも正常であり,喘鳴やラ音はなかった.腸蠕動音は聴取でき,腹部は触診で軟,膨満なく,圧痛もなかった.肝臓は触知せず,脾腫も認めなかった.腕と脚に浮腫はなかった.他の身体所見は正常であった.
追加の検査が行われ,結果は表1のとおり.頭部単純CTでは,急性の頭蓋内出血,梗塞,腫瘤病変は見られなかった.胸部X線撮影では,肺気量が低下していたが,限局性の浸潤影や肺水腫はなく,心臓のシルエットは正常で,胸水はなかった.
患者は集中治療室(ICU)に入院し,診断確定の検査が実施された.

鑑別診断

Amulya Nagarur医師:この若い女性はニューイングランドを旅行中に,重度の低Na血症と混乱を呈した.我々が知る限り,患者は入院の1週間前までは健康であった.そして魚介類を食べた後から,何回か嘔吐した.患者はその後から,精神状態が急性かつ急激に悪化した.初診の病院では,輸液に反応した低血圧が見られた.検査では尿浸透圧が高く,尿中Na濃度も高い,重度の低Na血症が認められ,ICUへ入院したのは適切であった.

低Na血症

低Na血症は,この患者の発症で最も深刻かつ心配な症状である.このように1つの検査が著しく異常である場合は,その異常をもたらす病態に注目することで初期鑑別診断を進めることになる.そして,他の目立った初期症状(表2)も加えて吟味することで診断仮説を検証し,正しい診断に到達することができる.

体液量の状態

この患者の低Na血症を評価する上で,第一に体液量の状態を考えることが重要である.初診の病院における体液量の状態の情報はないが,患者は輸液に反応する低血圧を認めており,これは初期に細胞外液量が低下していたことを示唆する.当院に移送された時,血圧は正常,粘膜は湿潤,皮膚ツルゴールは正常で,体液量は正常であった.
蘇生輸液の後に実施した尿検査でNa濃度が高かったが,これは尿中へのNa排泄の増加を意味している.この状況において尿浸透圧が高いことは,ADH分泌の増加を示唆する.しかしこの患者は検査の前に生理食塩水の投与を受けていたので,尿中Na濃度の解釈には注意を要する.
この時点において臨床像を再構成すると,蘇生輸液によって体液量が回復したにもかかわらず,尿中Na濃度が高く,ADH値が高いために,重度の低Na血症を起こして,神経学的異常を呈した若年の女性,となる.

高尿浸透圧と高尿中Na濃度を有する低Na血症

この患者の体液量の変動から考えて,高ADHと高い尿中Na濃度の両方を説明できる病態を考える必要がある.このリストは限定的であり,塩類喪失症候群,薬物または毒素への曝露,およびホルモンの異常が考えられる.
このうちいくつかは速やかに除外できる.中枢性塩類喪失症候群を引き起こす疾病はなく,頭部CTスキャンは正常であった.塩類喪失性腎症を示す所見もない.低Na血症を認める若い女性では妊娠を考えなければならないが,妊婦の低Na血症は軽度であり,妊娠検査も陰性であった.甲状腺機能低下症は低Na血症を引き起こす可能性があるが,正確な機序は不明である.ADH分泌の増加や腎尿細管におけるNa再吸収が障害される結果である可能性がある.この患者では,TSH濃度は正常であった.最後に,他に診断がない場合の除外診断として,SIADHを考える.

利尿薬の乱用と低Na血症

摂食障害とも関連するが,若い女性にとって,利尿薬の乱用は重要な鑑別診断である.サイアザイドは,最も一般的に乱用されている利尿薬であり,腎尿細管の作用部位の違いから,ループ利尿薬よりも低Na血症を引き起こす可能性が高い.サイアザイドは遠位尿細管のNa再吸収を阻害するが,髄質の浸透圧は変化させない.ループ利尿薬はヘンレのループの太い上行脚でNa,Cl,Kの再吸収を阻害する.サイアザイドを服用している患者は,尿の濃縮力が比較的保存されており,自由水を保持するADHの反応が正常に残っている.サイアザイドによる低Na血症は,通常,利尿剤の開始から1〜2週間以内に発生し,痩せた高齢の女性に多い.サイアザイドにより低Na血症を呈した患者の体液量は,しばしば正常である.この患者の年齢,性別,体重,および検査所見を考慮すると,利尿薬の乱用は鑑別診断に残しておくべきだが,他の所見も考えて,更に検討を進める必要がある.

副腎不全と低Na血症

低Na血症は,すべての型の副腎不全で起こり得るが,原発性副腎不全(アディソン病)において最も顕著に現れる傾向にある.原発性副腎不全は副腎の障害が原因であるが,二次性副腎不全は,脳下垂体か視床下部の疾患によってコルチコトロピンが欠乏する結果生じる.原発性副腎不全において,主に2つの経路によって血中Na濃度が低下する可能性がある.第一にコルチゾールの欠乏である.コルチゾールが欠乏すると,ADH分泌を抑制する負のフィードバック・ループが阻害されて,コルチコトロピン刺激ホルモンの産生が増加し,それがADH分泌を促進する可能性がある.第二にアルドステロンの欠乏である.アルドステロンの調節は視床下部-下垂体系とは独立しているため,アルドステロンの欠乏は原発性副腎不全の患者にだけ見られる.アルドステロン分泌の減少は腎尿細管に作用してNaバランスに影響し,低Na血症を引き起こす.副腎不全患者の体液量は正常の場合と低下している場合とがある.この患者の重度の低Na血症の原因を考える上で,副腎不全の可能性は高く,さらに詳細に検査すべきである.

MDMAと低Na血症

嗜好薬物であるMDMA(3,4-メチレンジオキシメタアンフェタミン,別名「エクスタシー」または「モリー」)は,合成セロトニン作動性アンフェタミンである.この薬物の使用による合併症には,高血圧,頻脈,横紋筋融解症,セロトニン症候群,昏睡や死につながる重度の低Na血症がある.MDMAが低Na血症を起こすメカニズムとして,薬剤誘発性のADH分泌,口渇や高体温による水の過剰摂取などが挙げられる.MDMAを服用した患者は典型的には体液量が減少するが,一部の患者の体液量は正常である.MDMAによる低Na血症や合併症は特に閉経前の女性に見られるので,この患者もその可能性がある.しかし,もしそうなら,カテコールアミン過剰による高血圧が見られたはずである.またMDMAは,使用後1〜3日間,ほとんどの尿薬物スクリーニング検査で検出可能である.この患者がMDMA中毒の患者層に当てはまり,激しい興奮状態を呈し,受診前日に大量の水を飲んでいたとしても,薬物スクリーニングが陰性で嗜好薬物の使用歴がない以上,診断は別にあると考えるべきである.

診断仮説を再度検証する

否定されないで残った2つの病態は,利尿薬の乱用と副腎不全である.これらの診断は,この症例の他の特徴,例えば輸液に搬送した低血圧,軽度の単独の高K血症,およびアニオンギャップ正常代謝性アシドーシスを説明できるか? 利尿剤による低血圧は体液量の著明な低下によって引き起こされ,輸液反応性である.副腎不全の患者の血圧低下は,コルチゾール欠乏による血管応答の失調や,嘔吐による体液量欠乏(さらに原発性副腎不全ではアルドステロン欠乏)によって引き起こされる.副腎不全患者の低血圧の治療の基本はグルココルチコイドと蘇生輸液であるが,この患者の低血圧は蘇生輸液だけで改善した.これは体液量の欠乏が他の要因に比べて非常に強く血圧に影響していたことを示唆する.低血圧から鑑別診断をしぼるのは難しいが,軽度の高K血症およびアニオンギャップ正常代謝性アシドーシスは有用である.
K保持性利尿剤でない限り,利尿剤は高アルドステロン血症および体液量減少性アルカローシスによって,低K血症および代謝性アルカローシスを引き起こすと予想される.しかし,副腎不全は,この患者に見られたような代謝障害を起こす可能性がある.高K血症は副腎不全の中でもアルドステロン欠乏を来す原発性副腎不全の患者にだけ生じる.この患者の軽度で単独の高K血症は,嘔吐のためにK値の上昇が妨げられて顕著にならなかった結果である可能性がある.高K血症は原発性副腎不全患者のわずか50〜60%に見られる.おそらく遠位ネフロンのアルドステロンに依存しない調節機構によって,K濃度が正常に維持されるためである.この患者が嘔吐したにもかかわらず,軽度のアニオンギャップ正常代謝性アシドーシスを呈したことは,原発性副腎不全で説明できる.それはアルドステロン欠乏による腎尿細管性アシドーシスによって尿の酸性化が妨げられたためである.

原発性副腎不全

原発性副腎不全はまれな疾患であり,高所得国で最も多い原因は,自己免疫性副腎炎である.症状や徴候は非特異的であり,疲労,めまい,胃腸の不調,塩分を欲すること,皮膚色素沈着がある.この患者の症状を統一して説明できる診断として,慢性の自己免疫性の原発性副腎不全が,胃腸症状によって代償不全に陥ったという可能性が考えられる.しかし,いくつかの典型的な所見が欠けている.
皮膚の色素沈着は,慢性経過の原発性副腎不全では,ほとんど常に認められるが,この患者では皮膚の所見は報告されていない.色素沈着は間擦領域で顕著になる可能性があるが,最初の診察では見逃されやすい.安静時の血漿コルチゾール値が正常なために,コルチコトロピン分泌の亢進とメラノサイト刺激が妨げられて,色素沈着が現れなかった慢性原発性副腎不全の症例報告もある.好酸球増加も副腎不全の症状ではあるが,患者の一部に限定して見られるので,この患者に認められなかったとしても意外ではない.
要約すると,私はこの患者は副腎不全であると考える.推奨する診断確定の検査は,コルチコトロピン値の基礎値とコシントロピン刺激試験である.
 Meridale Baggett医師(内科学):Colling医師,この患者を診察したときのあなたの印象はどうでしたか?
Colling医師:この若い女性を診察したとき,重度の低Na血症を最も心配した.救急部のチームは副腎不全の可能性を疑ったため,ハイドロコルチゾンの静脈内投与を行った.患者がICUに到着したとき,我々は副腎不全を考えたが,過剰な水分摂取やSIADHなど,他の原因による低Na血症が合併している可能性も除外診断として意識した.

臨床診断

過剰な水分摂取,SIADH,あるいは副腎不全による重度の低Na血症.

病理学的考察

Anand S. Dighe医師:この症例の最初の診断検査は,患者が救急部に到着した直後の午前4時30分に施行した血中総コルチゾール値の測定であった.コルチゾール値は7.2 μg/dLであった(基準範囲<10.0 μg/dL).コルチゾールの基準範囲は,健康者で認められる範囲に基づいており,日内変動が見られる.しかしながら,重篤な疾患が存在する場合は,疾患によって視床下部-下垂体系が賦活されて下垂体のコルチコトロピン分泌が刺激されるために,副腎皮質のコルチゾール分泌が促進されて,コルチゾール値はかなり上昇すると予想される.この患者のように重篤な状態において,血中コルチゾール値が低いこと自体,副腎不全を推定する証拠になる.
 コシントロピン刺激試験を行って,この患者の副腎機能をさらに評価した.コルチコトロピンの活性部分であるコシントロピンを静脈内投与し,血中コルチゾール値とコルチコトロピン値の初期値(注射前)を測定し,さらに30分後および60分後に血中コルチゾール値を測定した.コルチゾールの初期値は低く(4.5 μg/dL),コルチコトロピンの初期値は非常に高かった(896 pg/mL,参照範囲6〜76 pg/ml).これらの結果は,原発性副腎不全を強く示唆する証拠であった.コシントロピンの投与にコルチゾールが30分後および60分後に反応性上昇を示さなかったことで(それぞれ4.6 μg/dLおよび4.5 μg/dL),診断はより確実になった.
検査の異常と臨床症状は,原発性副腎不全によるグルココルチコイドとミネラコルチコイドの分泌低下によって説明できる(図1).コルチゾールの欠乏はストレス応答の低下を引き起こし,コルチコトロピン分泌を阻害する負のフィードバック・ループを妨げる.このため,コルチコトロピンや他のプロオピオ・メラノコルチン由来ペプチドの上昇をもたらし,皮膚の色素沈着が起きる.コルチゾールの欠乏はまた,ADHの分泌を亢進させて,低Na血症をもたらす.アルドステロンの欠乏がさらに低Na血症を進行させ,この患者で観察された所見,すなわち代謝性アシドーシス,軽度の高K血症,不適切に高い尿中Na値をもたらす.

治療法の議論

Lloyd Axelrod医師:我々がこの患者を診察した時には,血中Na濃度は119 mmol/Lに改善しており,覚醒度は回復して会話もできた.患者から聴取した追加の病歴に基づいて,我々は患者の病態が急性ではなく慢性である特徴を確認することができた.我々は簡単な質問をした.「あなたが最後に完全に健康だと感じたのはいつか?」「最初に調子が悪くなった所は何か?」.この患者は以前からランニングをしていたが,数か月前から疲労のために走る能力が落ちていた.患者は数週間にわたる悪心があった.患者の日光暴露領域,その他に手掌のしわ,中手指節関節上の皮膚,膝などには強い色素沈着が見られ,最初の診察では見逃した可能性が高い.軽度の高K血症しか認められなかったのは,嘔吐による可能性が高いと考えられた.
1930年以前は、副腎不全はほとんど常に致命的な疾患であった.副腎不全の治療にグルココルチコイドが導入され,蘇生輸液,電解質補給が行われると,患者は普通,劇的に改善する.平均寿命も健常者に近づくのではないかと期待されたが,しかし実際はそうではないと判っている.副腎不全患者の死亡率は,健常者の2〜3倍であり,特定の癌の発生率が高い.病的な状態は相当に大きい.患者はしばしば学校や仕事を欠勤し,頻回の入院を要し,就労や社会生活,家庭生活,身体活動の変化も大きい.
副腎不全の治療には依然として多くの問題があり,課題が残っている.グルココルチコイド受容体の遺伝子多型によるグルココルチコイド感受性の個体差を考慮しないといけない.遺伝子多型によりグルココルチコイドの組織感受性が低下する一方で,感受性が増加する場合もある.さらに,コルチコトロピンとコルチゾールは律動的に分泌され,早朝のより大きなピークと,午後の小さなピークがある.しかしこれをシミュレートする方法は判っていない.また,グルココルチコイドの初期用量を患者ごとに正確に調整する方法もない.コルチゾールの平均分泌量は14.5mg/日(範囲4.9〜29.0)である.通常は15〜25mg/日を2分割投与で開始する.下限値から開始する傾向にある.
外来患者が初めて原発性副腎不全と診断された場合,初期の評価はどのようにするか?まずは,投与したグルココルチコイドまたはミネラルコルチコイドの作用が過剰か,或いは不足していないかを見る(表3).また,患者が適切な塩分を摂取していることを確認しないといけない.一般的な健康指導では塩分制限に重点が置かれることが多いからである(例えば,通常の健康的食生活,或いは高血圧や浮腫性疾患の治療では,塩分は制限するように指導される事が普通である).
この患者を退院の1ヶ月後に診察したが,ハイドロコルチゾン(8時に10mg,15時に5mg)およびフルドロコルチゾン(0.1mg/日)が投与されていた.患者は午前中に疲労感が残り,これはハイドロコルチゾンの朝の投与時間が遅すぎるためと思われた.患者の手はふわふわであったが,これはフルドロコルチゾンが過量なためと考えた.1ヶ月の間に,易出血性,筋肉量低下,体重増加がみられた.エネルギー摂取や運動の量に変化がないにもかかわらず,患者の体重は発症前のベースラインより6.4kg増えていた.これらの所見はハイドロコルチゾンの投与量が多すぎたためと考えた.我々は,現在の朝のハイドロコルチゾンの投与量(10mg)は変えないが,服用を午前7時(覚醒時)に早くし,午後は減量(2.5mg)するように指示した.また,連続しない2日間(水曜日と日曜日),フルドロコルチゾンを休薬するように指示した.
3ヵ月後に患者は再診した.夏の暑い中,友人と長期休暇をとって海外に出かけた.塩分と水分の損失があるので,これは副腎不全の患者にとって挑戦である.しかし患者の調子は良かった.1ヶ月目の外来で認めたすべての症状は,前述した僅かな処方の調整によって,消えていた.患者は難なく30kmのハイキングができ,以前のようにランニングを再開した.
Jeffrey L. Greenwald医師(内科学):原発性副腎不全において,自己免疫性と他の原因とで違いがありますか? Axelrod医師:まず,原発性副腎不全や自己免疫疾患の家族歴があるかどうかを聴取する必要がある.患者は,結核,ヒストプラスマ症,副腎不全を引き起こす可能性のある他の感染症が見られる地域から移住したか,或いは渡航したか?患者は抗凝固剤を服用しているか?副腎不全で説明できる以上の疼痛,すなわち副腎出血を思わせる強い背中や腹部の疼痛があったか?患者は,結核や他の感染症の有病率が非常に高い特定の地域からの移民か?患者が米国人の場合は,自己免疫性が原因として強く考えられる.
自己免疫性原発性副腎不全の患者には,通常自己抗体が見られるので,次のステップは21-ヒドロキシラーゼ抗体を測定することである.この患者も入院時に測定したが,退院後に検査は陰性と報告された.この結果をどう判断するか?この検査は約60〜75%の感度があり,陽性なら自己免疫性を示唆示するが,陰性でも否定は出来ない.自己免疫性原発性副腎不全の患者には,他の抗体,例えば,ステロイド17α-ヒドロキシラーゼおよび側鎖切断酵素に対する抗体が認められる場合もある.これらのテストは広く行われてはおらず,特異的ではない. 次の課題は,結核や他の肉芽腫性疾患,癌,両側副腎出血,他の稀な浸潤性疾患を除外するために,腹部CTスキャンを行うかどうかであった.患者の経過はとても良く,上記の疾患を示唆する証拠もなかったので,我々はCTを撮影しないことにした.今後,これらの疾患を検討することはあるかもしれないが,今は注意深く経過を観察することにした.

最終診断

原発性副腎不全(アジソン病).