内科

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の臨床

2020年1月日本にSARS-CoV-2が侵入し、やがて姫路でもクラスター感染が発生して、当院もCOVID-19患者を受け入れた。当初は治療薬はおろか、日本語の医学情報もほとんどない状況で、まさに手探りの対応を余儀なくされた。2020年2月に入ると、医学雑誌に掲載されるCOVID-19の情報が増え始め、我々はこの医学情報を網羅的に集めて、次の日の診療に役立てる、という作業を繰り返した。
次のCOVID-19マニュアルは、現時点で重要と思われるCOVID-19情報をまとめたマニュアルである。最初はウイルス肺炎によるARDSと考えられていた重症COVID-19であるが、今では、血管内皮障害を契機とした血栓性微小血管障害とDICによる肺・心・肝・腎など多臓器の障害であることが判ってきた。
流行の第一波が治まりつつある今だからこそ、我々はCOVID-19に対する理解を深めておくべきである。

COVID-19の臨床マニュアル

COVID-19の臨床マニュアルを作成致しました。

姫路日赤COVID-19臨床マニュアル Ver-3.3【PDF】

最新記事

SARS-CoV-2対する抗体の持続は短いー免疫パスポート戦略の限界

(Long QX, et al. Clinical and immunological assessment of asymptomatic SARS-CoV-2 infections.
Nat Med. 2020 .doi: 10.1038/s41591-020-0965-6.)


SARS-CoV-2のRT-PCR陽性であった、重慶市万州区の178人の患者のうち、全経過を通して無症状であったのは37人(20.8%)であった。この無症候性群におけるウイルス排出期間の中央値は19日で、有症候性群の14日よりも有意に長かった。急性期のウイルス特異的IgG値は、無症候性群の方が症候性群より有意に低かった。回復期の初期にウイルス特異的IgG抗体と中和抗体が低下したのは、無症候性群で各々93.3%と81.1%、症候性群で96.8%と62.2%であった。更に、無症候性群の40%、症候性群の12.9%は、回復期の初期にIgG抗体が陰性化した。無症候性群は18種の炎症性および抗炎症性サイトカインがより低値であった。これらのデータから、無症候性群はSARS-CoV-2感染に対する免疫応答が弱いことが示唆された。
SARS-CoVやMERS-CoVに対する抗体は少なくとも1年間持続することが確認された。しかし、COVID-19の回復期患者の多くで、感染の2-3か月後から、IgG抗体と中和抗体が減少し始めることが、今回の研究で観察された。別の研究でも、COVID-19の回復期患者の半数において、約6-7週間後に中和抗体の低下が認められた。数理モデルによる研究でも、SARS-CoV-2感染後の免疫の持続期間が短いことが示唆されている。
血清学的検査には特異性や感度の点で限界があり、SARS-CoV-2の検査は、SARS-CoV、MERS-CoV、風邪コロナウイルスに対する免疫反応の影響を受ける可能性がある。しかし今回の研究からは、SARS-CoV-2対する中和抗体の持続期間が短いこと、無症候性群では40%、症候性群でも12.9%が早期からIgG抗体が陰性化すること、特に無症候群はSARS-CoV-2感染に対する免疫応答が弱いことが示唆された。COVID-19に対する「免疫パスポート」戦略には限界があるかもしれない。また抗体検査では、特に無症候感染者を捉えきれない可能性がある。


(2020/07/22)

SARS-CoV-2対する免疫反応を既に持つ人の存在

(Sette A, et al. Pre-existing immunity to SARS-CoV-2: the knowns and unknowns. Nat Rev Immunol 2020. doi: 10.1038/s41577-020-0389-z.)


一般集団の中の一定数の人々は、SARS-CoV-2に暴露していないのに、既に免疫反応を持っているようである。まだ証明されていないが、これは従来の感冒性コロナウイルスに感染した免疫の記憶ではないかと推測されている。この免疫反応がCOVID-19の重症度、集団免疫、ワクチンの開発と有効性に影響する可能性があり、検証が待たれる。

以下の様な事例が報告されている。
・SARS-CoV-2が出現する前の、2015年から2018年の間に米国で採取されたドナーの血液サンプルの50%に、SARS-CoV-2に対する反応が検出された。T細胞の反応は、SARS-CoV-2のスパイク以外のペプチドに対して最も高かったが、スパイクに対する反応も検出された。この反応は主にCD4+ T細胞に由来し、CD8+ T細胞の関与は少なかった。
・オランダの研究では、SARS-CoV-2に未曝露の被験者10人のうちの1人で、SARS-CoV-2スパイクに対するCD4+ T細胞の反応性が検出され、スパイク以外のタンパクに対する反応は2人に検出された。CD8+ T細胞の反応は、10人のうちの1人で検出された。
・ドイツの研究では、SARS-CoV-2抗体陰性の健康なドナーの34%において、T細胞がSARS-CoV-2スパイクに陽性反応した。
・シンガポールの研究では、SARS、COVID-19の既往・暴露のない被験者の50%に、ヌクレオカプシドタンパクnsp7またはnsp13に対するT細胞応答が報告された。
・英国の研究でも、SARS-CoV-2に曝露していない被験者に反応性が検出された。

まとめると、さまざまな地域のかなりの人々のT細胞が、SARS-CoV-2未曝露にも関わらず、既にこのウイルスを認識している。これらの人々のSARS-CoV-2特異的T細胞は、HCoV-OC43、HCoV-HKU1、HCoV-NL63、HCoV-229Eなどの感冒性コロナウイルスのprimingを受けた記憶T細胞に由来すると推測される。感冒性コロナウイルスはヒト集団で広く循環し、軽い感冒の原因となる。人口の90%以上が少なくとも3つの感冒性コロナウイルスに対する抗体が陽性となる。
インフルエンザの研究では、既存のT細胞の交差反応が有益に働く可能性を示している。2009年のH1N1インフルエンザ・パンデミックでは、疾患重症度の年齢分布が、高齢者の方が若年成人よりも軽症である「V」字型の曲線を描いた。SARS-CoV-2を認識するメモリーCD4+ T細胞を多く持つ人は、SARS-CoV-2の曝露を受けた時、より速く、より強い免疫応答のおかげで、軽症で治まる可能性がある。メモリーT濾胞ヘルパー(TFH)CD4+ T細胞は、SARS-CoV-2に対する迅速かつ強力な中和抗体の産生を促進する。メモリーCD4+およびCD8+ T細胞は曝露後の早期に、肺および鼻咽頭で直接、抗ウイルス効果を発揮する可能性もある。地理的な違いによって、4つの感冒性コロナウイルスの流行株が異なる可能性があり、COVID-19の重症度に関係している可能性がある。
一方で、既存の免疫が有害に働く可能性も否定できない。たとえば、類似する病原体に対する免疫記憶があるために免疫応答が減弱したり(抗原原罪original antigen sin)、逆に抗体反応で病状が重篤化する可能性(抗体依存性感染増強antibody-dependent enhancement)も考えられる。


(2020/07/20)

換気の悪い部屋における、小さな飛沫を介したSARS-CoV-2感染

会話や咳で発生する直径数~10 μmの小さな飛沫にはウイルス粒子が含まれており、エアロゾル中で3時間生存可能である。 飛沫は気道感染か、手の汚染を介して接触感染する。咳には大きな飛沫(直径100-1000 μm)と小さな飛沫(1-10 μm)が含まれ、小さな飛沫の方がはるかに多い。会話では小さな飛沫のみ発生し、咳では大小の飛沫が生成される。
大きな飛沫が地面に急速に落ちるのが観察されました。 咳の飛沫の速度は始め2〜7 m/sであるが、目に見える様な大きな飛沫(直径500 μm程度)は、重力によって1秒以内に地面に落ちる。半径5 μmの典型的な小飛沫は、160 cmの高さ(つまり、平均的な口の高さ)で生成されて地面に落ちるまで、9分かかる。この小さな飛沫が、SARS-CoV-2のエアロゾル感染に関与している。通常の呼吸では、鼻腔からの飛沫は背景値以下である。口腔と鼻腔に由来する非常に大きな飛沫は、くしゃみで発生する。
換気のない部屋、機械換気のみの部屋、機械換気に加えてドアと窓を開けた部屋(換気の良い部屋)、の3パターンで、室内の飛沫の状態を比較した。換気の良い部屋では30秒後に飛沫数が半分になったが、換気がない部屋では約5分かかった。人間の発する5 μmの飛沫は、地面に落下するまで平均9分かかるが、換気の悪い部屋では、1。4分で飛沫の数が半分になった。公共スペースでは人と物理的距離を取り、換気を改善すると、感染性のあるエアロゾルは希釈されて除去される。ただ、ウイルス感染を防ぐためにはフェイスマスクを使用する必要がある。サージカルマスクは、小さなエアロゾル飛沫の30%しかブロックできない。

(Lancet Respir Med 2020. doi.org/10.1016/ S2213-2600(20)30245-9)
(Appl Biosaf 2010; 15: 67-71)
(Nat Med 2020; 26: 676-80)

市民におけるSARS-CoV-2の感染状況

PCRに基づいた公式発表のCOVID-19患者数は、実際の感染者数を大幅に過小評価することがよくある。しかし、より広い住民検査に基づいた最新の研究でも、これまでに感染した人の割合は、まだ10%未満である。ウイルスの大規模な集団感染の可能性がなる「集団免疫」と呼ばれるしきい値は、60%以上と言われている。世界で最も大きな被害を受けた都市でさえ、大多数の人々は依然としてSARS-CoV-2に感染していない。
一部の国では(スウェーデンなど)、集団免疫を高める戦略を取って、都市封鎖は行わなかった。しかし、こうした場所でも、これまでに感染した人は7-17%にすぎないことが判っている。米国で最大のコロナウイルスの発生があったニューヨーク市の食料品店やコミュニティセンターにおける調査によると、2020年5月上旬時点で市民の約20%がウイルスに感染していた発表された。コロナウイルスが最初に出現した中国でも同様の調査が行われていますが、結果はまだ報告されていない。武漢市の1病院の調査によると、仕事に復帰を考えている人々の約10%がウイルスに感染していた。

(Popovich N, et al. The World Is Still Far From Herd Immunity for Coronavirus. The New York Times, May 28, 2020)

COVID-19と急性腎障害(AKI)

急性腎障害はCOVID-19の入院患者によく認められる。急性腎障害は呼吸不全と関係があり、人工呼吸を要しない患者ではあまり認めない。急性腎障害を発症すると、COVID-19の予後は不良になる。 COVID-19入院患者5、449名のうち、急性腎障害は36。6%に発生した。急性腎障害はステージ1が46。5%、ステージ2が22。4%、ステージ3が31。1%で、14。3%が透析を必要とした。急性腎障害は主に呼吸不全のCOVID-19患者に認められ、人工呼吸中の患者の89。7%、そうでない患者の21。7%に発生した。透析を必要とする患者の96。8%は人工呼吸を必要とした。人工呼吸中に急性腎障害を発症した患者の52。2%は、挿管から24時間以内に急性腎障害を発症した。 急性腎障害の危険因子には、高齢、糖尿病、心血管疾患、黒人、高血圧、人工呼吸、昇圧薬の必要性などがあった。急性腎障害の患者の35%が死亡、26%が退院、39%が入院中であった。

(Kidney Int 2020. doi.org/10.1016/ j.kint.2020.05.006)

COVID-19における肺血管内皮炎、血栓症、血管新生

COVID-19患者の多くはd-ダイマーが上昇し、血栓性微小血管症を示唆している四肢の皮膚所見を認める。肺の血管障害は、換気血流ミスマッチを通して、低酸素血症や酸素化における体位の影響(腹臥位など)の原因となっている可能性があるが、詳細な検討はなされていないが、本研究ではCOVID-19の死亡患者7名の剖検肺を、H1N1インフルエンザによるARDSで死亡した10名の患者の剖検肺、および非感染の対照肺と比較した。COVID-19とインフルエンザの肺に共通する病理像として、びまん性肺損傷(DAD)とT細胞の血管周囲への浸潤が見られた。DADは初期ARDSの組織学的特徴であり、浮腫、出血、肺胞内フィブリン沈着を認める。一方で、COVID-19肺には3つの特徴的な血管異常が認められた。第1に重度の血管内皮細胞障害であり、細胞内にウイルスが存在し、細胞膜の破壊が見られた。第2に広範囲の血栓症と、肺胞毛細血管の微小血栓と微小血管障害である。この毛細血管の微小血栓は、インフルエンザ患者と比べて、9倍多く認められた(P <0。001)。第3に顕著な肺の新生血管であり、メカニズムは主にIntussusceptive angiogenesisと考えられた。COVID-19患者の新生血管は、インフルエンザ患者より2。7倍多く認められた(P <0。001)。 COVID-19患者の肺血管内皮細胞は、細胞間結合が破綻して、細胞は膨張し、基底膜との接触も喪失していた。内皮損傷には血管周囲の炎症と同時に、内皮細胞内にSARS-CoV-2ウイルスが存在することからウイルスの直接的な傷害の可能性を示唆している。

(N Engl J Med 2020. doi: 10.1056/NEJMoa2015432)