院長徒然日記

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No.73 スタートレックドクターも夢じゃない

SF映画「スタートレック」のドクターの世界が近未来に実現することも夢ではなくなったのではと期待を膨らませてくれる新聞記事が目にとまりました。
昨年人工知能が囲碁のプロ棋士に勝利したという内容です。人間との知能比べにおいて、1997年IBMの「ディープ・ブルー」がチェスで、同年「ロジステロ」がオセロで、2010年「あから2010」が日本将棋で、そして2011年にはIBMの「ワトソン」がクイズ人気番組の歴代チャンピオンに勝利してきました。打ち手が3,000万種類あるともいわれる囲碁で人工知能が勝利するには少なくとも10年が必要と考えられていましたが、技術進歩はすさまじく、予想をはるかに上回る勢いです。

わたしは消化器外科医ですが、中でも肝臓外科を専門としています。1979年外科医としてスタートしました。肝臓外科医にとって画像、特に腫瘍や血管の画像は大変重要です。その当時、エコー検査では腫瘍があるか無いかが判明する程度の画質でした。CT検査機器もやっと一般病院で整備し始めた頃で、1画面を撮像するために20秒間も必要で、しかも画質は満足のいくものではありませんでした。血管の情報も必要ですので、侵襲的な血管造影検査もほとんどの患者さんで行い、これらの画像を総合して診断をしていました。さらに肝臓手術のためには、その準備としてたくさんの平面画像を頭の中で再構築し、肝臓や複雑な血管の立体画像をイメージし、そしてこれを立体的にスケッチをしていました。こうしてから予定術式を考え、肝臓の体積がどのくらい残るかを、方眼紙を利用して計算し、手術の安全性を確認していました。これらの作業を行うには多くの時間も必要ですし、経験も必要でした。これらの準備をしてはじめて実際の手術に臨んだものです。

それから30年余を経て、エコー検査、CT検査、さらにはMRI検査などの医療機器の進歩は目覚ましく、現在では大量のしかも鮮明な画像が瞬時に得られるようになりました。また手術するために行っていた侵襲的な血管造影は必要なくなりました。それに付け加え肝臓の機能も測定することが可能になりました。この結果診断能力はより精度の高いものになりました。術前準備としての肝臓や血管の立体画像を短時間に、自動的に作成し、画面上で見ることができるようになりました。さらに肝臓のどこで切除すれば、どれだけ肝臓の体積が残り、機能がどれだけ残るかを自動的に計算してくれるようになっており、経験の多寡に関係なく誰にでもできるようになっています。
肝切除の実際でもシミュレーションソフトが進歩し、ここを何cmの深さまで切ると血管が出てくると教えてくれるようにもなっています。また最近では腹腔鏡を利用することにより、腹部を大きく切開せずに穴を開けるのみで肝切除も出来るまでになっています。

肝臓外科分野での医療機器の進歩について述べましたが、他の分野でも同様に目覚ましく発展しています。人工知能も進んでおり、既に心電計も含めいろいろな医療機器で診断面で医師の補助が出来るようになっています。先ほど述べた人工知能ワトソンは診断に関してかなりの能力をすでに持っていると聞きます。
人工知能が今後さらに発達した時代では医療、医師の役割はどのように変化しているのでしょうか? 診断は人工知能が受け持ち、医師は承認作業になるでしょう。“Apple Watch”などのデバイスやセンサーが発達すると、低コストで多数のデータをモニターすることができ、医師はセンターでモニターを監視し、患者さんに適切な指示ができるようになるのでは? 現在の医師が行っている作業の多くが無くなる方向にありますが、やはりわたしが行ってきたような外科的治療は数は少なくなるものの絶対必要なものとして残るのでは? このようにどんどん医師の役割が小さくなり、差別化が起きるのでは? 開発能力や突出した技能を持っている医師と、決められた内容を作業する医師と、機械をアシストする医師などに区別される時代が訪れるのでしょうか? 想像はいくらでも膨らんできます。
このようなことはわたしがこれまで歩んできた30年の変化をみると、今後30年後には現実になることも夢ではないかもと楽しくなります。

さらに時代が進むと医療ホログラムであるスタートレックドクターの出現は夢ではないと想いが膨らみ、そのような世界を見たい、治療を受けてみたいと思います。

2016年 2月 15日 姫路赤十字病院 院長 佐藤 四三