院長徒然日記

院長徒然日記

No.68 日常の風景、しかし大きな喜び

或る人によると仕事のやりがいは「五つの喜び」に分類できるそうです。1.帰属の喜び、2.稼ぐ喜び、3.働く喜び、4.自己成長の喜び、5.社会貢献の喜び、です。上手く分類していると感心させられます。自分、周囲の人たちを観察すると、どの喜びに重きを置くかは人それぞれであり、常に同じ意識ではなく、生活環境等置かれた立場に変化が現れれば当然喜びも変わってきます。

最近の医療では“医療不信”“クレーマー”“モンスターペイシェント”“医療訴訟”等々、医療に関わっているものとしてあまり耳にしたくない言葉の枚挙に遑がないほどです。実際この様なことに関わり、心に傷を負い悩み、またこれらが原因で退職を余儀なくしている職員も多くおります。多くの医療従事者は、病気で困っている人たちを助けたい一心でこの職業を選び、働かれておられるので、この様な原因で職を離れることは決してあってほしくありません。

しかし病院内での日常をみると、多くの職員はやりがいを持って仕事に取り組んでいます。自分も含めて医療人のモチベーションは一言で表すならば、患者さんの“ありがとう”を聞くことです。この言葉があれば何でもできると思う気持ちです。経験上その言葉を耳にするのは、ごく日常的で、何処にでもありそうな出来事の中にあります。

最近私が経験したことを書き記してみます。患者さんは、腹部のがん患者さんで、数年前にわたしが手術をさせていただきました。しばらくは問題なかったのですが、肺転移を生じ再度手術をいたしました。しかし完治することはなく肺転移、骨転移と出現しましたが、全身的な問題もあり抗がん剤治療はできませんでした。骨転移による疼痛も悪化し、放射線治療、緩和医療等を行い、多くの先生方や、職員の方のおかげで小康状態を長く続けることができました。入退院も繰り返されました。顔を見かけると、その度ごとニコニコされながら、「皆さんがよくしてくれるから痛くはありませんよ!」と話され「ありがとう」と常に付け加えられます。カルテ記事、職員の話では疼痛はかなりなものと推し量れるにもかかわらず、常にそのように話されていました。わたしたちスタッフもできることを精一杯し、患者さんも感謝の気持ちを「ありがとう」の言葉に込めて返してくださる。この中に仕事の喜びを見出しているのです。

患者さんは亡くなられ、初七日を済まされ御主人が挨拶に来られました。痛みもあり、つらい中でもわたしたちにいつも「ありがとう」の声掛けをしていただきお礼を申し上げたところ、病院、スタッフを信頼していたから、決して苦しんではいなかったと気を使った言葉を返してくださいました。

普段の生活ではなかなか得られませんが、医療に携わっているとこの様な経験を得ることがあります。病院内での一つの風景ですが、これこそが私たちにとって最高の喜びであり、明日への活力になっています。

2015年 11月 26日 姫路赤十字病院 院長 佐藤 四三