院長徒然日記

院長徒然日記

No.58 術者にふさわしい“ノンテクニカルスキル”

わたしは大学を卒業して35年間、外科医一筋でやってきました。素晴らしい指導者、同僚、後輩、そして何よりも多くの患者さんの治療に関わることができました。ご迷惑をおかけしたことも多々あったかと思いますが、日々の経験から学び自分なりに勉強もし、人間的にも成長してきたと自負しています。60歳を少し超えた今、これまでの臨床経験を振り返り医師として、外科医として、とりわけ術者としての資質について普段考えていることを書いてみます。

「知識」は学ぶことができ、外科で重要な「技術」も修練することにより会得することができます。しかしながら、「知識」「技術」のみでは術者の資質としては不十分で、学習や修練では得られない大切なものがあります。これは一般的に言われているノンテクニカルスキルの範疇に入るものです。
よく「想定外の出来事」と説明されることがありますが、手術においてはほとんどが想定内であり、それが日常的です。ただし、稀ではありますが想定外のことは必然的に生じ得ます。ここに術者としての資質が問われます。非日常的な想定外の事態にいかに対処できるかが重要なのです。大阪大学外科にて医局員に対して「外科医に必要な性格は何か?」というアンケートが実施されたとき、もっとも多かった回答は「決断力」であり、ついで「責任感」でした。

わたしたち外科医は知識、技術を磨くことにより常に想定外のことをシミュレーションし、想定内のものに変えるよう努力をしております。しかし、いかにしても想定外の事態に遭遇することがあります。この時こそ「決断力」、「責任感」を発揮することが求められます。

「決断力」を発揮するには、不測の事態が生じたとき、まず自分で客観的に状態を把握することが大事です。手術助手、麻酔科医、看護師等周囲からできるだけ多くの情報を入手して、チーム内の状態を把握する冷静な「状況判断」、チームメンバーに対して指示する的確な「意思決定」が必要です。このときチーム内での意見を聞くといった「コミュニケーション」力も求められます。そして何よりもチーム内の「リーダシップ」をとり、想定外を想定内に持ち込む力が必要です。

もう一つの重要な点が「責任感」です。ここで取り上げる責任感とは医師や看護師に対するものではなく、患者さんやその家族の方に対する責任感です。私は消化器外科医ですから、例えば胃がんなどの手術に立ち会うことが多くありました。今の医療では術前診断といって手術前にできるだけの情報を得て評価をして治療の方針を計画しています。しかし実際に開腹術をすると、予定外に切除不可能の状態を経験することがあります。撤退せざるを得ない状況の時、家族と同じスタンスで患者さんのことを考え、患者さんに対して家族と同じように責任を持つことが求められていると私は考えます。

術者として求められる資質として「決断力」と「責任感」について私なりの考えを文章にしてみました。当然異なった考え方もあると思います。50人の方、100人の方、1000人の方の治療の経験を積み重ねることにより、熟練した外科医は、「技術」、「知識」以外のいわゆるノンテクニカルテクニックを会得していると思います。個性はあるにしても、術者としての資質を備えたいち外科医でありたいと願います。

2015年 7月 13日 姫路赤十字病院 院長 佐藤 四三