院長徒然日記

院長徒然日記

No.35 なつかしい患者さん
▲当院エントランスから見える光の庭
▲当院エントランスから見える光の庭
病院内のエントランスホールを歩いていると一人の女性から声をかけられました。「あの時はおばあちゃんを診ていただきありがとうございました。」なかなか誰であるか思い出すことができませんでしたが、話を続けているうちに明瞭にそのおばあちゃんを思い出すことができました。

そのおばあちゃんとは、私がこの病院へ再就職して初めて治療を行った肝臓がんの患者さんのことでした。肝臓外科を目指していた若い外科医でしたので、大学病院で学んだ最新の医療を行うべく、様々な術前評価を行いました。血管へ浸潤のあるいわゆるステージⅣでしたが、根治が最も期待できる肝切除術を検討しました。しかしある条件がほんの少し整わなくて手術は断念せざるをえませんでした。

そこで完全に切除をあきらめたわけではなく、術前治療を行い、手術できる状態に持ち込む計画を立てました。専門的用語になりますが、肝動脈塞栓術を行い、それに引き続いてその当時先端的な方法であったリザーバーを肝動脈内に設置して、外来で肝動脈化学療法を定期的に繰り返しました。しかし計画通り切除できる状態にはなりませんでした。引き続き肝動脈化学療法を行いました。この治療が功を奏し肝臓がんは消失はしないものの、再増殖はしない状態になりました。

以後は3カ月ごとに定期的に経過観察していました。経過が大変良好でしたので研究会などで発表もさせていただきました。当時患者さんは60歳代後半でしたので、何となく通院されなくなり、私も自然に忘れた状態になりました。

その後病院が新築移転しましたが、しばらくしたある日の外来に何の前触れもなくそのおばあちゃんが受診されたのです。90歳を超えられており、体も大分弱られていましたが、私のことを覚えられており、お互いに感激したものです。CT検査等一連の評価を行いました。肝機能こそ低下ありましたが、肝臓がんは再発していませんでした。本来ステージⅣの肝臓がんは5年生存率が10%前後で大変厳しいものであり、生きておられたこと自体に驚きを覚えました。「また時々は診させてくださいね」と、お互いが“ありがとう”の思いで診察を終えました。

しばらくしてお嫁さんが「あの時はおばあちゃんを診ていただきありがとうございました。」の最初に戻ります。

臨床をしていると医師であることの喜びを持つことができ大変ありがたいことです。

2014年 8月 19日 姫路赤十字病院 院長 佐藤 四三