院長徒然日記

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No.34 新たな専門医制度に期待する地方の医療
▲病棟で入院患者さんとスタッフが共同制作したちぎり絵
▲病棟で入院患者さんとスタッフが共同制作したちぎり絵
今回は日本病院会雑誌に寄稿した内容を載せることにいたしました。

サンタフェ研究所がアメリカにあり、複雑系研究をテーマに1984年設立されている。この研究所にはあらゆる領域のノーベル賞級の優秀な研究者が集まっている。ここでのある逸話がある。「サンタフェ研究所は、今後どのような専門家が必要か?」の問いに対して設立者の一人コーワン博士が「専門家は十分にいる。我々が必要とするのは、さまざまな分野の研究を統合する人だ」。これは優秀な専門家がいかに多く集まっても複雑な問題を解決することは容易いことではなく、専門家たちと協働作業をして統合する人が必要であることを意味する。地球温暖化問題の解決が困難であるのもその一例である。
日本の医療はこれまで時代の要請もあり細分化された専門医制度の方向に進み、また幅広い研修を行うため新たな初期臨床研修医制度も始まり一定の社会的目標を達成することができた。しかし一方で医師の地域偏在・診療科偏在などの社会問題が持ち上がった。これを是正する一つとして専門医制度のあり方について議論がなされ、2017年より新たな制度が始まろうとしている。そこで現在の専門医制度に関して、私なりの切り口で考えてみたいと思います。
現在の医師臨床研修制度が始まって、多くの研修医は都市部での研修を希望するようになり、いわゆる旧来の医局による医師派遣の仕組みは困難になってきている。医師の専門医指向は昔からあったが、最近その傾向がますます強くなっており、私たち地方都市での患者も専門医による診療を強く望むようになってきている。この結果地方での医師不足は加速され、医療崩壊が危ぶまれているのが現状である。この一つの原因として日本社会の医療における知恵の劣化によるところが大きいのではないか。
われわれは高度な専門性を持った医師を高度な知性を備えた人物と考える傾向がある。「高度な専門性=高度な知性」ではなく、「高度な知識」を備えたと考えるのが妥当である。医師自身も社会もこのことを理解して行動することが重要である。企画会議の場で「私は技術屋ですから、この設計については…」、「私は事務屋ですので、この契約は…」の発言があるが、これは専門家が自己限定をしている結果である。同様なことが医療の現場にも見受けられ、専門外につき一切診ようとしない現実がある。これでは地方での医師不足は解決することはない。
本来ひとつであるべき医療の分野が、細かい専門領域に分断されてしまい、患者に対して総合的アプローチが必要であるにもかかわらず、専門医が互いに対話と協働による診療が進んでいない。またややもすると理論ないし知識を担うものと、実践を担うものが分業してしまい、その結果本来実践の検証による理論形成が不十分となり、実臨床にそぐわないものとなる可能性を秘めている。そして知識が先行したあまり客観主義が増長し、医療の現場にはかけがえのない人生を背負った生身の人間がいることを忘れがちとなっている。
これからの日本の医療を考える上で、医療の原点は何かを振り返り、かつての医師と患者との信頼ある関係を取り戻す必要がある。その上で新しく始まろうとしている専門医制度の必要性を地域住民、そして医療機関が理解し、お互い協働して発展させることが肝要と考える。知性知恵のある医療再興をともに進めていきたい。

2014年 8月 5日 姫路赤十字病院 院長 佐藤 四三