院長徒然日記

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No.179 新春夢の書『命』
除夜の鐘を撞く参拝者
除夜の鐘を撞く参拝者
法話をされる住職
法話をされる住職
書写山円教寺摩尼殿でいつものように新年を迎えました。わたしにとって毎年の行事の一つになっています。新年への願いを込めて住職が漢字一文字を揮毫される「新春夢の書」の催があり、その一文字を真っ先に見ることにしています。大晦日夜10時半過ぎに家を出て、ロープウェイに乗り11時過ぎには山上駅に着きます。そこから摩尼殿まで昼明るい時は15分程の距離ですが、この時ばかりは意識してゆっくりと参道を歩くことにしています。参道は樹々が茂っており、薄暗い明りが所々あるものの、場所によっては暗闇に近い状態にもなります。気温零度と寒く、お寺にお参りする人たちもこの時間帯はまばらで話し声もほとんどない静寂があり、そして適度な暗さは頭の中でいろいろな事を思い巡らすにはまたとない環境であり、わたしは大変気に入っています。この度もこの1年間にあったことなどを振り返りながら、ゆっくりと歩きました。

今年はいつもよりさらにゆっくり歩いたのか摩尼殿には11時40分ごろ到着しました。いつも座る場所に静かに座り、周囲を見渡すと拝殿に来られている人が例年より少ないのが気になりました。正月の過ごし方が変化したのかなと少し寂しい思いをしましたが、わたしの隣に座った若いカップルが円教寺で新春夢の書を迎えるために横浜から来ていることを知り嬉しくもありました。そうこうしているうちにカウントダウンが始まるころには拝殿は参拝者であふれかえっており一安心でした。

年が替わる瞬間を待って、大樹孝啓住職はゆっくりと筆を運び始められ、大きな真白い屏風に現れた今年の一文字は『命』でした。 住職は揮毫を終えると大勢の参拝者を前に法話を始められました。「年号が新しく令和になって初めて迎える新年にあたって『命』についてもう一度深く考えていただきたい。アフガニスタンで駆け引きなく住民、国の復興を願って様々なことに携わってきた中村医師が銃撃され死亡した。国内でも刑務所に入りたいから、人を殺したいから殺人を犯した。事務次官まで務めた人が子息の命を奪った。このような事件が全世界で起こっている。あってはならないことです。命を粗末に考え、扱う人が増えている。大切に思う心を持って欲しい。もう一度命とは?心とは?について深く考えていただきたい。その様な一年であって欲しい。」このように力強く訴えられました。例年とは違った想いを込められておられる様でした。 参拝を終え、拝殿を後にしてロープウェイ駅まで暗い道を引き返しました。帰り道、途中参拝者が除夜の鐘を撞く音がいつもの年より重く感じられました。家につき今この日記を記していますが、新春夢の書の意味するところは、とてつもなく広く、重く、深く、考えさせられ『命』に繋がる思いは何も浮かんできません。わたしも一人の医療人ですので、故日野原重明先生(聖路加病院)の書をもう一度紐解くことから始めたいと思います。

2020年 1月 1日 姫路赤十字病院 院長 佐藤 四三