院長徒然日記

院長徒然日記

No.159 患者が医療従事者を育てる

3月から4月にかけての時期は、わたしたちの病院・付属看護学校では多くの研修医、看護師を世に送り出し、また多くの研修医を含む医師、看護師等医療従事者、看護学生を迎え入れることになります。「患者が医療従事者を育てる」という言葉があり、医療関係者ならば誰でも知っていますし、また知っておいてほしい言葉です。ところで『心に残る医療・体験記コンクール入賞作品集』(日本医師会、読売新聞社主催)があり、これを好んで読んでおりますが、その中に「患者が医療従事者を育てる」の言葉について、立場を変え患者側からはどのように思っているのか垣間見る作品を読むことが出来ましたので、その一部を紹介します。

看護師を目指している娘さんが父を亡くし、遺品を整理していた時、お父さんの担当だった若い看護師が書いた一枚の手紙を見つけました。その一部を抜粋します。「・・様。研修の間はお世話になりました。看護師としてやっていく自信が持てず失敗の連続だった日々に、研修で・・様の担当になれたことを感謝しています。わたしが点滴の液を腕にこぼすといった大失態をしたとき『気持ちを大きく持って。大丈夫』という言葉にすごく励まされました。素敵な患者さまとめぐり合えたおかげで、私は今、看護師として日々を懸命に送っています。」これを読んで娘さんは素朴な疑問を投げかけられていました。「患者が医療従事者を育てることは十分理解ができる一方、患者からしたら命を預ける職業だから最初からプロとしてパーフェクトであっていただきたいという気持ちは当然だと思っています。」しかしながら自分も看護師を目指していますので、父の担当であった看護師が現在どのようになっているか見てみたい。

命を預ける職業だから、最初からプロとしてすべてにおいてパーフェクトを求められる気持ちはよく理解できます。わたしが医師になった40年前の当時は系統的な研修制度とは程遠いものでした。それが最近では医師、看護師を含め医療従事者の研修制度は以前と比べてシステム化され、はるかに充実してきております。ただ昔が研修において未熟であったかと言えばそうとも言い切れません。今と違い医療機器は揃っていませんでしたので、とにかく患者さんのそばにいて、患者さんを観察し、診察することが主体でした。そのおかげで患者さんと接することが多く、家族の方を含めどのようなことを考えているかを知る機会を持つことができました。これこそが医療の原点であり、基本であり、以後の医師としての力量を増すことができたと自負しています。 最近の医療技術の進歩は目覚ましく、情報社会も急速に発展しており、患者の医療に求める内容も多様であり、複雑化してきています。わたしたち医療従事者は知識・技術を研鑽することは当然ですが、それと同じか、それ以上に人としての人間性を高めることが社会のニーズに応えることに繋がります。医療に携わる人、特にこれから医療に飛び込む若い人たちに、期待を込めてこれらの点を心していただきたいと思います。                 
                                                                                                    

2019年 4月 1日 姫路赤十字病院 院長 佐藤 四三