院長徒然日記

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No.92 うっかりミスはなぜ起こる?

メールを送信した後で、文字など間違いに気付き、あわてて送りなおすといったことはよく経験します。いわゆる“うっかりミス”に相当するものです。些細なことで済めばよいが、ミスの内容は小さくても、結果は大きな問題になることもあり、今の時代は“うっかりミス”が“うっかり”で済まされない時代になっています。わたしは医療に従事しており、生命にかかわっていますので重大な結果に結びつく可能性もあり、“うっかりミス”防止のシステムに関しては十分なる配慮をこころがけています。ミスをなくすように注意しろと言い聞かせて防ぐことができるならば、苦労はありません。ミスは生じるものであるとして、物事に対処する必要があり、いかに少なくするかの仕組みを考える必要があります。

ある脳科学者が、興味深いことを述べています。「人間が一度に注意を向けられることには限界があるという前提に立つと、こうしたミスは劇的に減る」と指摘しています。人が注意を払える対象は限られています。あるものに注意を払うと、ほかのものが見えなくなるのです。「注意」は有限であり、容量が決まっています。ならば「注意」を無駄遣いしないためにも、本来注意を集中すべき仕事のために割く十分な空き容量を残すことにより、ミスを減らすことができると説いています。

今まで多くの職場では「精神を集中、集中」などの精神論的な合言葉を掛け合うことにより、作業量を増やし、しかもミスをなくし、その場を乗り切ろうとしていたと思われます。しかしこの脳科学者の説に従えば、“うっかりミス”を減らし仕事で成果を出すには、限りある「注意」といった資源をいかにマネジメントするかを考えればよいことになります。 病棟でベテランの看護師は長年の経験で作業の手順を覚えており、様々な局面でも脳内で最適の作業手順を導き出すことができ、「注意」といった容量をさほど使っていません。空き容量は多く残っていますので、ミスは少なくて済みます。しかし経験の少ない看護師は、多くの手順のために容量を使っており、空いた容量が少なく、結果的にミスをしやすくなると考えます。誰もが空き容量を多くするには、一つの方策として、手順を書き出すことにより、少なくとも「注意」の容量を多く占拠されることはなくなります。
航空機パイロットは、ベテランの機長であっても、膨大なチェックリストに沿って仕事をこなしているとされています。これによりミスをなくし安全を確保しています。私たちの病院でもこれに相当するものとして、チェックリストを作成して活用されており、誰もが安定した作業を行うことができます。ただ、これを作成するには大変な手間暇を必要とします。しかし一度作成することにより、作業が効率化し、ミスを減らし、永続的に効果を享受することができます。
もう一つ「何をすべきか」、「作業はどこまで進んでいるのか」は「注意」の容量を多く費やします。解決策として多くの職場で取り入れている手段としてTo Do Listを使用しています。すべきこと、進捗状況を可視化することによりミスをおかしていないかなどのストレスから解放することができ、有効と考えます。リスト作成にもやはり手間暇はかかりますが、“うっかりミス”の削減に安定して大いに役立ち、永続的な効果をもたらしてくれます。

これら以外にも「注意」の容量を多く残す手段はあると思います。人はミスをするものであると認め、限りある「注意」を理解したうえで、これの空き容量を多く保つようにマネジメントする対策を立て、集中するべき作業に打ち込める方策を常に考えることが求められる時代となっています。

2016年 11月 2日 姫路赤十字病院 院長 佐藤 四三